メロディ志向デスメタル(not メロデス)の歴史に残る1枚として一般メタルファンまで巻き込んでのヒットとなった前作、Heartwork(ハートワーク)に続く作品として期待を集めていたアルバムなんですが、結果的には残念ながら全く振るいませんでしたね。
作品について語る前に、CARCASS(カーカス)というバンドの特徴についてざっと説明しておいたほうがいいかもしれません。人によっては「Heartworkでメロデスブームの火付け役になったバンド」という認識しかないかもしれませんからね。
もともと彼らはデスメタルの中でもちょっと特殊な立ち位置のバンドです。その初期はナパームデスと並ぶUKハードコア/グラインドコアバンドでしたが、その後デスメタル要素を強めてゆき、3作目「Necroticism: Descanting The Insalubrious」あたりでデスメタルの代表的バンドとして取り上げられるようになります。
ハードコア出身・UKバンドという出自の影響もあるのか、US系や北欧系のわかりやすい音とは違った、独特のひねくれたある意味煮え切らないサウンドが特徴です。デスメタル勢の代表に括られながらも、その中ではちょいと通好みとも言える異色な存在でした。
また、アルバムごとに異なったテイストを打ち出してきているので、以前の4作においてさえアルバムごとのファンの評価が一定しないというのもCARCASSの特徴と言えます。
このSwansongが不評を買った理由としては…
②メロディの方向性が変わった。
③マイケル・アモットが脱退した。
④リリース時に解散が確定していた。
というところでしょう。
まず①ですね。サウンドは十分にメタリックだしヴォーカルも今まで通りなのですが、この作品を「デスロール」のルーツの一つとする声もあるように、前作にあったメタル様式や従来のデスメタル要素が薄れロックンロール/ハードロック的な曲調やフレーズが目立つのは確かです。
そういった要素も彼らが以前から持っていたものに過ぎないのですが、今作はそれが全面を覆っています。
スピーディーな曲でもグルーヴ感を重視していて、デスメタル的なわかりやすい硬質な疾走曲が無いも批判につながっているのでしょう。(それらが批判の対象になるべきか?というのはまた別の話です。)
次に②ですが、Heartworkは実のところメロデスというほどメロディ要素は無くて、ギターソロや部分的なフレーズによるところが大きかったわけです。むしろメロディの割合という点では今作の方が上なのですが、それが前作のようなメタル保守に受けの良い演歌メタル的なクサメロじゃなかったのが不評の原因でしょう。
そして③は②の原因にもなる部分ですね。前作のクサメロ要素を担っていたギターヒーローの脱退というのは、やはりメタル保守の期待値を一気に下げることにつながったのは否めないので、セールス面への影響はあったかもしれません。実際、「マイケルが抜けたからダメになった」みたいな単純な発想で批判するファンもいましたしね。
この人は確かにときおり印象的なフレーズを聞かせてくれるのは間違いなく、その意味では前作ヒットへの貢献度は高かったかもしれませんが、本来それはあくまで彩りに過ぎず、サウンドの一要素としてあってこそ光るものだったと思います。
個人的にはコンポーザーとしてもあまり評価していませんので、彼の脱退の影響はギターソロ部分以外には特にないのではないかと考えています。(マイケル・アモット過大評価問題については機会があれば別項で…)
最後に④です。実はこの時期のCARCASSはギターヒーローマイケル・アモットの脱退〜同じくギターのビル・スティアー脱退〜解散決定という時期でした。
盛り上がる要素が一切ないシチュエーションでのリリースになってしまったのは確かです。
Swansongは結果的に初期のグラコア/デスメタ路線のファン、Heartworkで大量流入したクサメロファンの双方から総スカンをくらい、一部好事家の評価しか受けられない事態になってしまいました。
アルバム単体で評価すれば、中盤ミドルテンポの曲が続きややダレるものの、全体的には良質なメタルアルバムと言えます。前記の通りアルバム単位で変化を続けてきたバンドであり、前作・今作の突然変異もその一環に過ぎない、と正しく認識できるのであれば、問題なく十分に楽しめる作品です。
音楽的な成長・成熟にともなってメタル/ハードロック要素を強めて、初期衝動重視のオールドファンのバッシングを受けるという流れも、ある意味THE DAMNED(ダムド)〜DISCHARGE(ディスチャージ)〜NAPALM DEATH(ナパーム・デス)と連なるUKパンク/ハードコアの伝統芸と言えるかもしれません。
問題作度:★★★★☆
一般評価:★★☆☆☆
筆者評価:★★★★☆