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スウェーディシュデスメタルの黎明期を代表するハードコアデスラッシュバンドがグルーヴサウンド&デッスンロールスタイルへの一歩を踏み出した歴史的アルバム。
スウェーデンを中心とした北欧メタルシーンは、今ではエクストリームメタルの一大産地のひとつとなって世界的なバンドも生み出していますが、ENTOMBED(エントゥームド)ははその基礎を作った北欧デスメタル第一世代を代表するバンドのひとつです。
当時(90年代初頭)は某メタル雑誌の特集でデスメタル四天王だか五大デスメタルバンドだかに選ばれたりもしていました。
他は確かMORBID ANGEL(モービッド・エンジェル),CARCASS(カーカス),OBITUARY(オビチュアリー)あたりで、単に当時日本盤が発売されていたバンドだけを並べたタイアップ丸出しの雑なセレクト(当時ENTOMBEDはイヤーエイクの看板バンドでした)でしたが、逆に言えばデスメタルなんか輸入盤屋の片隅のキワモノコーナーを漁るしかなかった時代に、日本盤(まぁ、イヤーエイクとかロードランナーですが…)がリリースされるくらいには評価されて注目度と知名度があったということです。
彼らはのちに“デスメタルmeetsロックンロール”というスタイルでデッスンロールと呼ばれるジャンルのパイオニアとなり、メタル色の薄い作品やドゥーム/ストーナー寄りの作品などをリリースして賛否両論浴びつつもそれなりのステイタスを確立していきます。
このWolverine Blues(ウルヴァリン・ブルース)はその切っ掛けとなり、やはりそれなりに賛否が別れた節目となるアルバムです。
ちなみにタイトルにあるWolverineは、映画でもおなじみマーベルのアメコミキャラクターX-MENのローガンことウルヴァリンのことで、当時ブックレットにコミックが掲載されたスペシャルエディションもリリースされていました。
ENTOMBEDのWolverine Bluesが問題作とされる理由は?
② ハードコアでロッキンになった。
③ デスメタルらしさが薄れた。
今回挙げた要因は、ほぼ全て“音楽性の変化”という同じ理由によるものです。
① グルーヴメタルっぽくなった。
グルーヴメタルへの接近というと、すでにオワコン化してビジネス的に追い詰められたスラッシュメタル勢の総PAMTERA化が思い起こされますが、それとはちょっと事情が異なります。
デスメタル的方法論での進化がドン詰まりとなって役割を終えた状況の中で、古参バンドにはグルーヴメタル的なアプローチが方法論が次の一手として導入されはじめていて、Wolverine Bluesはそのハシリでもあったわけです。
このあたりからデスメタルのグルーヴメタルアプローチだけでなく、グルーヴメタルがデスメタル要素を取り入れることも増えデスコア,メタルコアなどクロスオーバーも進みます。
② ハードコアでロッキンになった。
これについては、「そもそも最初からじゃん!」で片付く話です。
ENTOMBEDというバンドは、クラストコアなどハードコアをルーツに持つ初期スウェイディッシュ・デスメタルの中でも、ひときわパンキッシュなハードコア色が濃いめで、同郷のDESMEMBER(ディスメンバー)やHYPOCRISY(ヒポクリシー)などのオーソドックスなデスメタルと比べると少々異色なものでした。
音の質感こそ、プロデューサー/エンジニアのトーマス・スコグスバーグ(Tomas Skogsberg)による、スウェーディシュ系特有のササクレ立ったジャリジャリ感満載でしたが、曲調にはロッキンでグルーヴを感じさせる部分もあり決して王道のブルータルデスと呼べるサウンドではありませんでした。
③ デスメタルらしさが薄れた。
そんなわけで、オールドスクールなデスメタルから離れてしまったことはどうやっても否定はできませんが、その後ENTOMBEDに追随して同様のアプローチを試みた他のスウェーデン勢に比べると、その変化には違和感は少なく自然に感じられるますし、路線変更に対する意外性もそれほど感じられません。
ENTOMBEDのWolverine Bluesという問題作が生まれた背景は?
90年代前半というのは、まだまだ初期デスメタルムーヴメントは現役で、年を追うごとに認知度やシェアも拡大の一途をたどっていた時期。
まだ怖いもの見たさレベルの完全なキワモノネタ扱いとはいえ、隔絶された地下世界の存在だったデスメタルがメタルシーンの表舞台にも顔を出すようになって、一般メタラーの認知度も高まって存在感を増してきていました。
輸入盤店でも、だんだん取り扱いブースが拡張されていましたね。
その反面、スラッシュメタルから続くエクストリーム進化という意味ではほぼ行き着くところまで行っていて、ヘヴィネス,スピード,複雑さ,過激さ,変態性のどのベクトルでも、すでにある程度は究極レベルのものが生まれてもいました。
つまり、シーンの拡大と一般リスナーへのマーケティングという意味ではまだまだこれからでも、音楽的なムーヴメントとしては爛熟期にさしかかり収束に向かっていたのです。
そんな状況ですから、先鋭的なヘヴィミュージック最新形としてのデスメタルに魅力と可能性を見出していたバンドたちは、次の音楽的な展開の模索へと移行していくのも当然のこと。(そこからドゥーム,ゴシック,メロデスなどが派生することになります)
WOLVERINE BLUESはその流れの中で生み出された1枚ということになります。
結局、ENTOMBEDのWolverine Bluesは作品としてどうなの?
ENTOMBEDはスウェーディシュ・デスメタルの代表格としてバレエ公演とのコラボまで行うほどの存在ですが、いい意味でも悪い意味でもデビューから今に至るまで常にB級臭さが抜けきらないバンドです。
このWolverine Bluesもスキのない完璧な作品ではなく、かなりムラの多く詰めの甘さも残る仕上がりですが、新機軸は成功していて名曲と呼べるレベルの楽曲も作り出しています。
エクストリームメタルファンも北欧ブルデスにこだわらなければ十二分に価値を見出せるはずですし、何よりあなたがデスロールに興味のあるリスナーなら、その草分け的アルバムとして無視するワケにはいかない必聴盤です。
次作のようにガレージ系ロックンロールスタイルへとラジカルな変貌を遂げているわけでもないので、兄弟バンドTHE HELLACOPTERS(ヘラコプターズ)のような北欧爆走ロックンロールを期待するとちょっとスカされるかもしれません。
とはいえ、デスロールという新しいスタイルを提示することに成功したという意味では、歴史的な意義があるアルバムとして一部で再評価もされていますし、ENTOMBEDと北欧R&Rの歴史を確認してみるためにも一聴の価値はあります。
問題作度:★★★☆☆
一般評価:★★★☆☆
筆者評価:★★★★☆