Contents
- 1ヘヴィメタルを体現する存在ながら時代を反映した結果、数々の問題作を生み出すことになったメタルゴッドによる問題作の中の問題作、ベスト・オブ・問題作とは?
- 1.1JUDAS PRIESTがJugulatorを生み出した背景は?
- 1.1.1JUDAS PRIEST待望の復活アルバムリリースも…
- 1.2JUDAS PRIESTのJugulatorが問題作とされる理由は?
- 1.2.1何故こうなった?JUDAS PRIESTがモダン化を選んだ理由は?
- 1.3JUDAS PRIESTのJugulatorは実際のところ作品としてどうなの?
- 1.3.1JugulatorとDemolition、ハルフォード不在時の2作品の問題は何なのか?
- 1.3.2Jugulator以降の微妙な作品を10倍楽しむ方法!
ヘヴィメタルを体現する存在ながら時代を反映した結果、数々の問題作を生み出すことになったメタルゴッドによる問題作の中の問題作、ベスト・オブ・問題作とは?
ヘヴィメタルの創始者JUDAS PRIEST(ジューダス・プリースト)は、まさにこのジャンルを体現するヘヴィメタルアイコン。
しかし、このサイトでは度々語っているように、彼らはヘヴィメタルシーンの進化/変化にともなって自らのサウンドをアップデートさせ、時にはトレンドをストレートに反映することも辞さないバンドでもありました。
実際には、米国市場向けにチューニングしたPoint of Entry(ポイント・オブ・エントリー)、80年代ポップロックに接近したTurbo(ターボ)、ジャーマンパワーメタルを取り入れたRam It Down(ラム・イット・ダウン)、さらにはベテランに顕著な大作主義に流れた冗長な直近数作など、問題作と呼びうる作品をいくつも抱えています。
最高傑作の座を争うことも多いPainkiller(ペインキラー)でさえ、オールドファンからは「スラッシュ/パワーメタルに染まり過ぎ」として否定されることもあります。
そんな彼らにとって最大の問題作と言うべき1枚となると、1997年の14作目Jugulator(ジャギュレイター)ではないでしょうか?
JUDAS PRIESTがJugulatorを生み出した背景は?
当時のJUDAS PRIESTはというと…、PANTERA(パンテラ)の革新的サウンドに触発されたヴォーカリストロブ・ハルフォード(Rob Halford)が、自身のソロプロジェクトに難色を示されたことで他のメンバーやレーベルとの対立、これが根が深く1992年にはついに脱退してしまいます。
ハルフォードはFIGHT(ファイト)を結成。1993年にグルーヴメタル路線の傑作アルバムWar of Words(ウォー・オブ・ワーズ)をリリースして進歩的なリスナーに高い評価を得ますが、JUDAS PRIEST本体の方は新ヴォーカリストが確定するまで長く活動休止に陥ります。
不満渦巻くJUDAS信者はハルフォードの離反が全ての原因と見なし、トレンドに魂を売り渡した俗物,地に落ちた背信者と断罪するかの勢いでした。特に80年代様式美至上主義の下地がある日本はその傾向が強く、FIGHTの傑作アルバムもただのPANTERAモドキの軽薄なトレンド追従作品としてバッシングされていました。
JUDAS PRIEST待望の復活アルバムリリースも…
そんな中、活動休止から5年を経てようやくリリースされたのがこのJugulator。
JUDAS PRIESTのコピーバンドで活動していたJUDASフリークで、ハルフォードにも匹敵する超絶ヴォーカリストのティム “リッパー” オーウェンズ(Tim ‘Ripper’ Owens)を迎え、ようやく待望の新作が発表されるということで、JUDAS信者や様式美メタルファンもワクワクのご機嫌チャンだったのですが、これが実にハルフォードのソロをも上回る問題作だったわけです。
このJugulator、そして同路線の次作Demolition(デモリッション)というハルフォード不在時の2作は、完全な黒歴史とされディスコグラフィーから葬り去ろうかという扱いです。(Demolitionに至っては日本語ウィキページすら存在しません。)
JUDAS PRIESTのJugulatorが問題作とされる理由は?
②楽曲のクオリティが低い。
③速い曲が全く無い。
まず①ですが、そう、結局こうなってしまったわけです。
厳密に言うと、ここで聴けるのはPANTERAらのグルーヴサウンドとは根本が少々異なるもので、デスメタルばりのブルタリティも取り入れつつもスラッシュ寄りパワーメタルの範疇を超えないサウンドです。
しかし、ヘヴィネスを重視したミドル〜スロー中心の作風は間違いなくグルーヴメタルを意識したものですし、その影響は音のテクスチャーやちょっとしたフレーズからもうかがえます。
グルーヴメタルをメタルの本道から外れた邪道なエセメタルと誹謗し、グルーヴメタルから受けた衝撃を作品へと昇華するために泣く泣く古巣を捨てたハルフォードを裏切り者と罵り、ひたすら教祖様の新たな聖典を待望していた信者や様式美至上主義者。
そんな方々には、ただただ御愁傷様としか言い様がありませんでした。
Jugulatorリリースの1997年は問題のWar of Wordsからすでに4年、PANTERAのピークも終わりグルーヴメタルのムーヴメントも収束していました。
後のニューメタル/NWOAHMにつながるバンド達が、インダストリアル,HIPHOP,デスメタル,ハードコアなど様々なジャンルとクロスオーヴァーし、それらのメソッドで大きくアップデートさせた新世代ヘヴィサウンドで注目を集めていた時期です。
もはや、単純なPANTERAフォロアー丸出しのスタイルなど完全に過去のものと成り果てていたこの時期に、それまで多くのバンドが試みて腐るほど量産され、本当に腐って屍累々となったサウンドと同レベルで、アプローチまで全く代わり映えしない作品を、この後に及んでJUDAS PRIESTから聴かされることになる残念感たるや…。
アンテナ的存在だったハルフォードが抜けただけで、こうもセンスが壊滅的になるとはさすがに想像していませんでした。
特に熱心なファンでもない私も、一聴した途端「あぁ…やっちまったなぁ…」とうなだれたものです。
続いて②ですね。作風がどうあれクオリティさえ高ければ言い訳は立つのですが、これもかなり微妙なラインです。
彼らはもともと“捨て曲なしの名曲ぞろい”というタイプのバンドではないので、Jugulator収録曲と同レベルの楽曲は過去にいくらでもあるのですが、キメ曲になるレベルのものがひとつも無いのではさすがにフォローのしようがありません。
最後に③ですが、彼らの持ち味で最大の武器となるのは、やはり疾走感あふれるスピードメタルナンバーです。Painkillerのアウトテイク程度の曲でも数曲あれば、大きく印象が変わっていたことでしょう。
何故こうなった?JUDAS PRIESTがモダン化を選んだ理由は?
モダン化の戦犯ハルフォードが抜けてなおPANTERA化の道を選んだのが、レーベルの指示だったのかバンドの意向だったのかは闇の中です。
ただ、コンポーザーの1人グレン・ティプトン(Glenn Tipton)は、1997年のソロ作Baptizm Of Fire(バプティズム・オブ・ファイア)でも、幾分ロックに寄りつつグルーヴメタルやグランジの影響を反映させたヘヴィ&ダークなスタイルを披露しており、こういったサウンドへの関心はあったと思われます。
もしかすると、脱退したハルフォードがグルーヴメタルの影響を昇華した上で、それまでのヘヴィメタルをハイセンスにアップデートした、圧倒的クオリティの作品を創り出したのことに対する対抗心もあったのかもしれません。
JUDAS PRIESTのJugulatorは実際のところ作品としてどうなの?
多くのリスナーが口をそろえて嘆いたように、前作Painkillerなどの過去の名盤やライバルFIGHTのWar Oof Wordsと勝負は、完全に惨敗、圧敗、爆敗。残念ながら比較にならないレベルで大きく劣ると言わざるを得ません。
ひとつフォローするなら、JUDAS PRIESTはハルフォード復帰を期に見事復活を遂げたなどとよく言われていますが、実際はどれもこの時期の2枚と大差無いクオリティなので、今となってはJugulatorもダントツで底辺とまでは言えなくなりました。
JugulatorとDemolition、ハルフォード不在時の2作品の問題は何なのか?
Jugulatorが、何故こんな仕上がりになったのか?それは実はハッキリしています。
結局、グルーヴメタルという音楽の肝心要の部分を全く理解せず、Painkiller風のパワーメタルナンバーのスピードを落としてヘヴィにし、装飾をいじっただけで様になるとタカをくくっていたということです。
曲の構成自体や部分的なフレーズにはソコソコ見るべきところもあっても、すべて台無し。
ここが、グルーヴメタルの勘どころを完全につ理解した上で取り入れることができた、ハルフォードのFIGHTとの決定的な違いです。
これは彼らに限らず多くのバンドが陥ってきた罠です。グルーヴメタルやドゥーム/ストーナーのグルーヴ感やダウナー感といったポイントを理解できないまま安易にブームに便乗しようとして、ベテラン/新人を問わず数多くのバンドが散々やらかして爆死してきました。
Jugulator以降の微妙な作品を10倍楽しむ方法!
音源のピッチ調節ができる環境にある人は、ぜひ再生速度を変更して倍速で聴いてみましょう。そうじゃない人も、YouTubeにアップしてある音源なら速度調整可能なのでそちらでトライ!
平均すると1.75倍速くらいがベストのようです。
これによって、ただ鈍重なだけだったJugulatorやDemolitionの楽曲が、信じられないほどアグレッシヴでかっこいいパワーメタルへと変貌を遂げます。
ライヴでの負担を減らすためかスピードを落とした結果、ダラダラと間延びしてカッタルイだけになった近年のアルバムも、ピッチを上げるだけでオリジナルの何倍も魅力的なものになります。
これは、いろんな作品に活用できる知る人ぞ知る裏技なんですが、本当にダメな曲はどうやってもダメです。本当に優れた楽曲はいくら速度を変えようが、別の魅力が垣間見えて曲の良さを再認識できるんですけどね…。
問題作度:★★★☆☆
一般評価:★★★★☆
筆者評価:★★☆☆☆