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【問題作】MORBID ANGEL/Illud Divinum Insanus|モービッド・エンジェル/狂える神々-イルド・ディヴァイナム・インセイナス (2011)

MORBID ANGEL_Illud Divinum Insanus インダストリアル
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停滞気味な“デスメタルの魔王”がかつてのカリスマヴォーカリストを復帰させて創り上げた起死回生の1作はなぜかインダストリアル路線!?

MORBID ANGEL(モービッド・エンジェル)といえば、USデスメタルの聖地フロリダを拠点に第一線で活動を続けるカリスマ的デスメタルバンド。

ホラーやオカルトに題材をとった世界観や、それをシリアスに表現するためのシンフォニック的/宗教音楽的なSEやインストも多用する大袈裟すぎるサウンドが特徴で、それはある意味ではいわゆるネオクラシカル系やエピック系のヘヴィメタル様式美と紙一重の部分もあり、もはやデスメタル様式美とでも言うより他ない域に達していています。

カルト的なファンや保守系デスメタラーからは、デスメタルの帝王,魔王,デスメタルゴッドなどと崇められ、デスメタル黎明期から現在に至るまでシーンを代表する存在として確固たる地位を築いています。

そんな彼らにも問題作と呼ばれる作品があって、それが8作目にあたるこのIllud Divinum Insanus(イルド・ディヴァイナム・インセイナス)です。

MORBID ANGELのIllud Divinum Insanusはなぜ問題作とされるのか?

①…インダストリアル色が激増した。
②…アプローチが古いしあまり生かされていない。
③…中心メンバーが脱退した。

① インダストリアル色が激増した。

これが最大の焦点ですね。

さかのぼれば、MORBID ANGEL初代ヴォーカリストのデヴィッド・ビンセント(David Vincent)は、インダストリアルメタルバンドGENITOUTURERS(ジェニトーチャーズ)のヴォーカリストでもある奥方Gen嬢の影響かはわかりませんが、以前からインダストリアルメタルに傾倒していました。

旧ユーゴスラビアのインダストリアルバンドLAIBACH(ライバッハ)による3作目Covenant(コヴェナント)からのリミックスカットは話題になりましたし、代表作である4thアルバムDomination(ドミネイション)では、サウンドテクスチャーにインダストリアル的な処理を施していました。
ついには、GENITOUTURERSに加入するためにMORBID ANGELを脱退したほどです。

デヴィッドの復帰がアナウンスされた時はカリスマヴォーカリストの帰還を喜んだと同時に、彼の嗜好が押し出されることを危惧する向きもありましたが、結局それが現実になったわけです。そしてリスナーの反発も予想通りでした。

② アプローチが古いしあまり生かされていない。

これはある意味では以上の問題点です。
残念ながら、本作はインダストリアルメタルに対して肯定的なリスナーにとっても、満足ゆく仕上がりとはいえないもの。これではインダストリアルメタルに対する是非どころではありません。

そもそもインダストリアルメタルの全盛期は90年代。本作リリースの2011年にインダストリアルとのクロスオーバーを試みるのであれば、その試みには何かしら新しいアプローチが求められます。
ところがここで聴けるのは、Dominationの直後くらいなら納得できるものの、今となっては旧態依然とした新鮮味の無いサウンドでした。

③ 中心メンバーが脱退した。

これも大きな痛手でした。
ブレイク後のMORBID ANGELを支えたギタリストのエリック・ルータン(Erik Rutan)に続いて、デビュー当初からのサウンドの要だったカリスマドラマーのピート・サンドバル(Pete Sandoval)まで脱退しまった体制は、作品の仕上がりがどうであれ、古参ファンに「もはや、かつてのMORBID ANGELでは無い!」という先入観を持たせるに十分でした。(一応エリックはエンジニアとして参加)

MORBID ANGELのインダストリアル路線に成功の目はあったのか?

インダストリアルを導入したデスメタルというと、まずパイオニア的な初期FEAR FACTORY(フィア・ファクトリィ)、ついで中期のNAPALM DEATH(ナパーム・デス)などが代表的ですが、ここで聴ける帝国的な美意識も感じさせる壮大で荘厳なアレンジは、ブラックメタルバンドのSAMAEL(サマエル)が実践しているゴシックインダストリアル的なアプローチに近いものです。

いずれにしても15〜20年以上も前から試みられているスタイルであり、その時代と大差ない本作でのアプローチは古色蒼然とした感が拭えません。

◆◇ そもそもデヴィッドさんのセンスって…

本作が不評を買った後デヴィッドが再度脱退、ストレートなデスメタルに回帰したことから、インダストリアル路線の導入はおそらくデヴィッドが復帰に際してネジ込んだアイデアだと思われますが、デヴィッドのインダストリアルセンスについてはやや古い上にかなり偏っていて、インダストリアルファンの視点ではあまり評価できるものではありません。

彼が在籍していたGENITOUTURERSにしても、あくまでフェティッシュでセクシャルなビジュアル演出ありきのバンド。ビザールなイベントやショーと連携してナンボといった存在で、音楽的には斬新さも個性も完成度も特筆するレベルのものではありませんでした。

そう考えるとインダストリアルパートをデヴィッドに一任した時点で、長年停滞しているインダストリアルシーンを大きくアップデートさせるような斬新で先鋭的なアプローチは期待薄だったと言えるでしょう。

◆◇ それで勝てると思うなよ!?

MORBID ANGELはベテラン組の中では最も手詰まり感が漂っているバンドなので、新しい刺激は歓迎したいところですが、本来は先鋭的で新機軸に対して好意的なリスナーも多かったデスメタルシーンも、時間が経つにつれて様式美にこだわる保守的メタルクラスタが大多数になり、実験を受けいれる柔軟性は失われています。

結局のところインダストリアルメタルの導入はデスメタル絶対主義的な保守的なリスナーにとってはアレルギーの要因でしかありませんし、リベラルなリスナーが評価できるほど先進的なアプローチとして成功してもいません。
彼らに多少でもリサーチ力があるのであれば、なぜこの作風で勝負に行けると考えたのかハナハダ疑問です。

結局のところ、MORBID ANGELのIllud Divinum Insanusてどうなのさ?

本作は後期MORBID ANGELとしては水準以上で酷評されるほどの出来栄えでは無いけれど、インダストリアルサウンドがどうしてもメタルファンのアレルゲンになる上に、そのアプローチについてもどうにも中途半端で新鮮味に欠けます。
結果的に保守派デスメタラーからも先鋭的なリベラルメタラーからも支持を得られませんでしたが、やや過小評価の傾向もあるとは言えます。

確かにインダストリアル的リフやEDM風のリズムも見られますが、それも半分程度で全編にわたって導入しているわけではないので、デスメタルファンが全く楽しめないわけでもありません。
むしろデスメタルの王道路線としても凡庸な仕上がりの、前作や次作に比べればはるかによくできています。

インダストリアルアプローチとしても新鮮味のある要素は見当たりありませんが、デスメタルスタイルに対して無難なコーディネイトはできていますし、T-07の呪祭的でトランシーなサウンドなどは成功の部類でなかなかの聴きどころです。

決してディスコグラフィーの中で優先順位の高いアルバムではありませんが、様式にこだわらないオープンマインドなデスメタルリスナーなら相応に楽しめることでしょう。

MORBID ANGEL / Illud Divinum Insanus
問題作度:★★★★★
一般評価:★☆☆☆☆
筆者評価:★★★☆☆

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