欧州ゴシックメタル勢とは一線を画したルーツを持って全く異なる進化を遂げた米国産ゴシックメタルとは?
アメリカは英国を中心としたゴシックメタルムーヴメントとは無縁のエリアで、同時期に同じとようなコンセプトのバンドが登場することはありませんでした。
ただ、ゴシック文化が無かったわけではなく、今では『ゴス』クラスタとしてメジャー化したオタク/文系の厨二的な層やバンパイアワナビーのような人たちを中心に、米国独自のゴスカルチャーは広がっていました。
しかし、欧州系のゴシックメタル様式が広がることはなく、80年代ニューウェイヴ/ゴシックロックの遅れてきたフォロアーや、エンタメ的なギミックのホラーパンク、ブルース/カントリーなどをルーツにした独自のUSゴシックサウンドが主流でした。
ゴシックがビジュアル系ファンションスタイルとしてガラパゴス化した日本に、ある意味では通じるものがあるかもしれません。
その一方で、90年代〜00年代にかけてオルタナティヴロック,インダストリアル,ニューメタルなどのジャンルでニューウェイヴリバイバル的な動きがあり、そこからUSスタイルのゴシックメタルと呼べるようなバンドも登場します。
米国ゴシックシーンを代表するUSゴシックメタル/ゴシックハード
ここでは、そんな米国のロックシーンだからこそ生まれた、独自のスタイルを持つUSゴシックメタル/ゴシックロックを紹介します。
DANZIG|ダンジグ
DANZIG(ダンジグ)はホラーパンクバンドMISFITS(ミスフィッツ)のヴォーカリスト、グレン・ダンジグ(Glenn Danzig)が結成したバンド。
キッチュなエンタメ的なゴシックホラーギミックのMISFITS解散後、よりシリアスでダークさを湛えた世界観のSAMHAIN(サムヘイン)を経て結成したのが、自身の名を冠したソロプロジェクトのダンジグです。
ブルーズ,カントリー,ロックンロールなど米国のルーツミュージックをも取り入れたダークでヘヴィなサウンド、『邪悪なエルビス』などと呼ばれることもあるグレンの、DOORS(ドアーズ)のジム・モリソン(Jim” Morrison)やエルビス・プレスリー(Elvis Presley)直系のディープで力強いヴォーカルが最大の魅力です。
初期はアメリカンゴシックロック/ゴシックメタルパイオニア的な存在として、“古き良きアメリカ”の闇を感じさせるアーシーでディープなヘヴィロックサウンドを作り出していましたが、のちに世界観はそのままにダンサブルな要素もあるインダストリアルメタルに移行。現在は再び初期に近いスタイルを取り戻しています。
TYPE O NEGATIVE|タイプ・オー・ネガティヴ
クロスオーバー・スラッシュメタルバンドCARNIVORE(カーニヴァ)の中心メンバーだった、ペーター・スティール(Petrus Steele)率いるTYPE O NEGATIVE(タイプ・オー・ネガティヴ)は、米国では初めてゴシックメタルと呼ばれたバンドです。
経歴からヴォーカルスタイルまでDANZIGと重なる部分が多いバンドですが、比べるとルーツミュージックからの影響が薄い反面、スラッシュ/ハードコアのエッセンスが色濃く、欧州ゴシック的な耽美性とプログレッシヴセンスまでもを持ち合わせた唯一無二のスタイルです。
セックスシンボル的なキャラクターが受けてブレイクしたのをキッカケに、メジャー2作目(4th)のOctober Rust(オクトーバー・ラスト)で女性リスナーをターゲットにしたポップでコマーシャルな路線に走りますが、ピークを過ぎた後は再度ハードコアでメタリックな作風を取り戻していきます。
LIFE OF AGONY|ライフ・オブ・アゴニー
LIFE OF AGONY(ライフ・オブ・アゴニー)はCARNIVORE(カーニヴァ)のギタリストJoey Z率いるグループで、TYPE O NEGATIVEのドラマーサル・アブラスカト(Sal Abruscato)も在籍していたなど、Type O Negativeの兄弟バンドというべき存在です。
今ではむしろ、LGBTのヴォーカリストミナ(キース)・カピュート(Mina/Keith Caputo)が在籍するバンドとして知られています。
彼らは、ニューヨークスタイルのタフなメタリックハードコアとTYPE O NEGATIVE系のゴシックなヘヴィロックをミックスした、ストロングスタイル・ゴシック・ハードコアとでも呼ぶべき他に類を見ないスタイルを確立しました。
デビュー当時はNYハードコアブームを背景にした勢いもあり、個性的なハードコアとして話題にとなりました。その後、ポストグランジ的なソフィスティケートされたハードロックスタイルに移行してしまい、初期のリスナーの多くは離れてゆきますが、作品は常に高い水準を維持していました。
MARILIN MANSON|マリリン・マンソン
MARILIN MANSON(マリリン・マンソン)は90年代から00年代にかけ、コンセプチュアルなトラウマロックのカリスマとして、サブカル系ロックアイコンの座に君臨していたバンド。
NINE INCH NAILS(ナイン・インチ・ネイルズ)のようなUS文系インダストリアルメタルをベースに、ニューウェイヴ,ゴシック,グラムロックなどをミックスしたアプローチですが、そのスタイルは欧州勢とは異なるエンターテイメント色の強いもの。
とはいえ、ヒットチャート入りしてセルブタレントのポジションにつくほどの人気/知名度を持っていたMARILIN MANSONは、アメリカの音楽シーンにゴシックスタイルを広めた立役者と言ってもいい存在です。
TOOL|トゥール
90年代初頭にUSハードコア/ヘヴィロックのカリスマヘンリー・ロリンズに見出されて、華々しくメジャーデビューしたTOOL(トゥール)は、あえて言えばポストグランジ的な立ち位置的のバンド。
中でもALICE IN CHAINS(アリス・イン・チェインズ)のような、ダークなサイケデリアとドゥーミィなエッセンスを持ったヘヴィロックの系譜にあります。
彼らが有象無象のポストグランジバンドと一線を画していたのは、PINK FLOYD(ピンク・フロイド)と比較されることが多いプログレッシヴな感覚と、センシティブでアトモスフェリックなゴシックテイストを兼ね備えた強烈な個性を持っていたことでしょう。
メタル,グランジ,プログレ,ポストロックetc…いろいろなカテゴリで語られながらも、その実どのジャンルにも属さない唯一無二のスタイルですが、これもUSゴシックのひとつの形と言っていいでしょう。
EVANESCENCE|エヴァネッセンス
EVANESCENCE(エヴァネッセンス)は、女性ヴォーカリストエイミー・リー(Amy Lynn)を前面に押し出したスタイルで歌姫メタルのアメリカ代表的な存在となり、デビュー早々グラミー層を獲得するなどトントン拍子で世界的な人気バンドに成り上り一時代を築いたバンド。
エモーショナルな歌メロによるサビの盛り上がりにウェイトを置いた楽曲や、ツインヴォーカルでの掛け合いなどの特徴は、間違いなくニューメタルのひとつの類型が基調にありますが、そのサウンドはゴシックメタルからの影響も濃く、間違いなくTHE GATHERING(ザ・ギャザリング)などの第1世代に端を発した歌姫系ゴシックメタルの流れを汲んだものです。
ヒットチャート入りするほどの産業ロック的な大衆性と商品としての品質の高さは、さすがはアメリカメジャー音楽シーンの第一線のバンドならではで、その意味では一線級のクオリティと言えます。
COLD|コールド
ニューウェイヴリバイバルの風潮があった当時の音楽事情もあり、ニューメタルシーンにもニューウェイヴ的なサウンドやメロディを取り入れるバンドは多数存在していました。
そんな中で、いち早くゴシックメタル寄りのスタイルを打ち出していたのがこのCOLD(コールド)。
ありがちなポストグランジ風のアメリカンハードロック路線に、これまた当時すでに類型的だったニューウェイヴ系ゴシックメタルをミックスしたサウンドは、当時も今も特に個性的とも独創的とも言えません。
しかし、ニューメタルシーンにニューウェイヴ寄りのサウンドは数あれど、意外にもゴシックメタルと呼べるほどゴシックスタイルを徹底した存在は稀でした。そういう意味では、ありそうで無かったバンドではありますし、楽曲のクオリティもなかなか高水準なものです。