Contents
- 1対立するヘヴィメタルとハードコアの間に位置する異端の存在からエクストリームミュージックのメインストリーム最新モードに登りつめたメタリックハードコアとその歴史は?
- 1.1メタリックハードコア…第1世代
- 1.1.1クラストコア/UKクロスオーバー
- 1.1.2クロスオーバースラッシュ
- 1.1.3オールドスクール メタリックハードコア
- 1.2メタリックハードコア…第2世代
- 1.2.1グラインドコア
- 1.2.2グルーヴコア
- 1.2.3メロディックハードコア
- 1.2.4スラッジコア
- 1.2.5ニュースクールハードコア
- 1.2.6デスコア
- 1.3メタリックハードコア…第3世代
- 1.3.1エモーショナルハードコア/スクリーモ
- 1.3.2メタルコア
- 1.3.3ポストハードコア/マスコア
対立するヘヴィメタルとハードコアの間に位置する異端の存在からエクストリームミュージックのメインストリーム最新モードに登りつめたメタリックハードコアとその歴史は?
ヘヴィメタルとハードコアのふたつのジャンルは、サウンドのエクストリミティーを追求して進化してきたロックミュージックとして双璧とも言える存在でした。
技術至上主義/様式美重視の傾向が強くフィクショナルな世界観が多いハードロック〜ヘヴィメタルと、初期衝動とDIY精神そしてポリティカルなアティチュードが重視されるパンク〜ハードコア、このふたつはのジャンルは一部では互いにリスペクトを持って交流を深め、一部では互いを敵視して激しくディスり合ってきた愛憎入り混じる関係にありました。
しかしながらヘヴィメタルとハードコアは水と油のようでありながらも、ある意味では腹違いの姉妹ジャンルとも表裏一体とも言える関係にあり、双方向に影響を与えあってそれぞれのエッセンスを取り入れながら同じような進化の変遷を遂げてきたのです。
年代を追って見てみれば、ハードコアとメタルのどちらかに新たなムーヴメントが起これば、時期を同じくしてもう一方にも、同様の特性を持った対応するサブジャンルが確立されてきたことからもそれは明らかです。
NWOBHM〜スラッシュメタル ↔︎ ハードコア/クラストコア/クロスオーバースラッシュ
デスメタル ↔︎ グラインドコア/デスコア
グルーヴメタル ↔︎ グルーヴコア/ニュースクールハードコア
メロディックパワーメタル ↔︎ メロディックハードコア
ドゥームメタル/ドゥームデス ↔︎ スラッジコア
ニューメタル/メロディックデスメタル/ゴシックメタル ↔︎ メタルコア/エモコア/スクリーモ
ポストメタル/プログレ・テクニカルメタル ↔︎ ポストハードコア/マスコア
メタルシーンにせよハードコアシーンにせよ、その中の先進的で意欲的な姿勢を持ったグループは、お互いを含めた周辺ジャンルの最新モードにも目を配っています。ハードコアシーンのパイオニアで代名詞でさえあるDISCHARGE、NAPALM DEATHらも、必要とあらば自らメタルサウンドを柔軟に取り入れて、実験的なハイブリッドサウンドを作り出してきました。
残念ながら、当初はそういった試みはことごとくバッシングの憂き目にあい、その根深い対立構造と閉鎖性を思い知られてきましたが、世代交代が繰り返されるにつれメタルmeetsハードコアのメソッドは当たり前のものとして常態化されてゆきます。
その最新モードであるメタルコアがメインストリームヘヴィミュージックまでになった現在に至っては、もはや互いの影響をごまかす意味すら無い状況ですが、それでも一部では未だに根深いセクト争いや対立が続いているようです。
メタリックハードコア…第1世代
ハードロック/ヘヴィメタルとパンク/ハードコアのクロスオーバーは、ルーツを辿ればパンク時代のMOTORHEAD(モーターヘッド)やTHE DICTATORS(ディクテーターズ)あたりまで遡ることもできますが、今に至るメタリックハードコアというスタイルということであれば、80年代のクラストコアやNYハードコア/クロスオーバーあたりに端を発していると考えるべきでしょう。
パンクからの影響を受けたNWOBHM系のグループ、さらにそれを下敷きにしつつ初期のハードコアをもルーツに持つスラッシュメタルの登場を背景に、メタルサイド/ハードコアサイド双方からの本格的なクロスオーバーが進み、メタルmeetsハードコアのハイブリッドサウンドが続々と登場するようになります。
しかし、この時期は現在と比較すると両ジャンルの対立は激しいものがあり、双方とも建前上お互いの影響を無いものとして語ったり、クロスオーバー化を進めたバンドが保守的なリスナーにバッシングされることも少なくありませんでした。
クラストコア/UKクロスオーバー
DISCHARGE(ディスチャージ)などのエクストリームなUKハードコアをルーツに、NWOBHMなどのメタル要素を取り入れた80年代英国流のクロスオーバーハードコア。
一部のNWOBHMグループと並んで英国エクストリームミュージックの源流ともいえるもので、ここからスラッシュメタルやデスメタル/グラインドコアへと移行したバンドも少なくありません。
なお、当時“ディスコア”などと呼ばれていたDISCHARGE直系のスタイルは、近年ではD-ビートとも呼ばれています。
当然ながらイギリスが中心的なシーンですが、その影響はドイツ,北欧など各地に広がっており、スウェーディッシュ・デスラッシュの音楽的なベースとしても知られています。
近年ではオールドスクールな北欧デスメタルリバイバルの機運の中で、そのルーツのひとつとして何度目かの再評価も進んでいます。
クロスオーバースラッシュ
ニューヨークが中心的なシーンとなって広がった、ハードコアがスラッシュメタルとクロスオーヴァーすることで生まれた折衷スタイルのジャンル。
ハードコアサイドからのアプローチが中心でしたが、中にはメタルサイドからのアプローチもあり、スタイルはそれぞれのバックグラウンドを反映して微妙に異なります。
いずれもスラッシュ的な疾走感重視ですが、ブレイクダウンやラップ風ヴォーカル/ミクスチャー要素など、後のハードコアシーンでも多用される様式はすでにこの頃から見られていました。
ビッグネームにアルファベット3文字のバンド名が多いのでそのイメージが強いですが、実際のところ全体を見渡せばそういうわけでもありません。
オールドスクール メタリックハードコア
メタリックハードコアの中でも、80年代から続くクラシックなサウンドをベースとして引き継いたスタイル。主にニューヨークシーンを中心にして盛り上がりを見せることが多いスタイルですが、各地でも同様のスタイルが見られます。
グルーヴとヘヴィネスを重視したニュースクールに対して、オールドスクールは疾走感重視の作風が特徴的で、それはいわばスラッシュメタルとグルーヴメタルの対比にも例えることができます。
クロスオーバースラッシュとして活動するバンドのいくつかも、元はこのシーンに属していました。
メタリックハードコア…第2世代
スラッシュメタルが収束してデスメタルやグルーヴメタルなど新たなエクストリームメタルの台頭に歩調を合わせるように、それらと対応するようなクロスオーバーによるメタリックハードコアが登場します。
この時期になると、同様な特性を持つエクストリームサウンドの追求という共通する目的で活動することも多くなり、その旗印のもとハードコアとメタルの距離がより密接になって交流も盛んになります。その結果、一部の原理主義リスナー/バンドを除けば、互いの影響やリスペクトを抵抗なくオープンに語る空気も生まれます。
グラインドコア
英国でクラストなどのハードコアをルーツにエクストリーム化した、ハードコア版のデスメタルのようなジャンル。デスヴォーカルやブラストビートといった共通要素も多く、互いに影響を受けながらシーンを築いてきたためデスメタルとのクロスオーバーも盛んです。
デスメタルと比較するとより実験色が強い傾向があり、ノイズやオルタナティヴロックに通じる前衛的なアプローチも目立ちます。ムーヴメント初期は装飾を取り払った短めの曲を並べた作風が主流で、〜1分程度の楽曲を数十曲収録するといったスタイルも流行しました。
ゴア趣味な世界観を持つバンドもありますが、デスメタルと比較するとポリティカルなアティチュードを根底に持っていることが多いのが特色です。
グルーヴコア
90年前後からグルーヴメタルなどの流れと並行して増えてきた、ヘヴィネス&グルーヴを主体としたクロスオーバースラッシュの発展系的なスタイル。
グルーヴメタルと同様に、スラッシュ的疾走感よりもミッドテンポのグルーヴを重視したサウンドがスタンダードで、のちのミクスチャーメタルほど本格的にではありませんがHIPHOP的な方法論を取り入れるグループも多くなり、パーカッシヴなラップ風ヴォーカルの導入も大きく増加しました。
グルーヴコアシーンには、のちにニューメタル/メタルコアに近いアプローチをとるようになるグループも多く、メタルコアの直接的なルーツとも言えます。
メロディックハードコア
ポップなメロディを前面に押し出したスタイルのハードコア。USシーンを中心に90年代のメインストリームを席巻し、その影響はJ-ポップシーンにも及びます。
ひとくちにメロディックハードコアと言っても、初期パンクやガレージパンクに近いものからオルタナティヴロックに近いもの、フリーキーでプログレ色すら感じさせるもの、スカをベースにレゲエも取り入れたいわゆるスカコア、果ては産業ポップスや歌謡曲でしかないものまでスタイルは幅広く、当然のようにメタル色の強いものも見られました。
特にメタルとのクロスオーバーやメタルからの転身組などのサウンドには、メロディックパワーメタルの影響下にあるアニソン的なメロディーラインを持つものも少なからず存在し、中にはパンククラスタに向けたジェネリックメロパワ(あるいはその逆)としか言いようのないグループもありました。
スラッジコア
ドゥームメタルやストーナーロックなど、スロー&ダウナーなヘヴィサウンドを追求するジャンルと同時発生的に登場したスタイル。
ニュースクールハードコア
グルーヴメタルを基調にしており、スピードよりヘヴィネスを強調している点でもそれと同様ですが、大きく異なるのはメタル成分の高さとスラッジメタルにも通じるよりヘヴィネスを重視した作風。
メタル的整合感の重視とギターソロやメロディの導入などで、さらにヘヴィメタルに接近したスタイルとなっており、ヘヴィメタルからの影響を隠さず公言しているバンドが多いのも過去にあまり見られなかった特徴です。
メタルコアにつながるメタリックハードコアという名称がここから一般的になりますし、実際に現在のニューメタル系メタルコアに至るスタイルは、このニュースクールハードコアのメソッドがベースとなっており、ニュースクールシーンの後発グループの多くもメタルコアシーンに流れています。
ストレートエッジやヴィーガニズムを標榜するバンドが多いのも特徴ですし、マッチョ系が幅を利かせるハードコアシーンで後のエモ風フェミニン系キャラが増加するキッカケにもなりました
デスコア
ニューヨークスタイルやニュースクールなどのグルーヴ主体のサウンドをベースに、デスメタルとクロスオーバーして生まれたジャンル。
音質の粗さやモッシュを意識したブレイクダウンの導入など特徴とされる要素はありますが、アーティスト側の自己申告がなければ単なるミドル〜スローテンポを多用したデスメタルに過ぎないものも多く音楽的な境界線は曖昧です。
デスコアやメタルコアの元ネタになった作品として、デスメタルシーンではやや存在感の薄かったミドルテンポ主体のバンドが再評価されて、カリスマに祀られるという副産物も産みました。
現在もメタルコアのいち派閥としてジャンルの名称は残っていますが、やはりその境界線は主観が強く曖昧です。
メタリックハードコア…第3世代
グルーヴメタルから派生したニューメタルが、グルーヴメタルをベースにオルタナティヴロック,ニューウェイヴなどとのミクスチャースタイルだったように、ハードコアシーンも同様のミクスチャー手法で生み出されたサウンドが主流となります。
ニュースクールハードコア,デスコアなども同様のメソッドで発展していきますが、最終的にメタルコアというジャンルがそれらを統合した大枠のカテゴリーという位置付けになってゆきます。
一部ではジャンル原理主義/純血主義のバンドやリスナーがまだ根強く存在して対立やディスり合いも続いているものの、メタリックなハードコアがもはやメインストリームな存在にまでなったこともあって、メタルとハードコアのクロスオーバーは珍しいものではなくなり双方の距離は縮まってゆきました。
この動きには、メタルもハードコアもエクストリーム進化という点ではすでに頭打ちになっていて、周辺ジャンルとのクロスオーバーによるハイブリッド化しか方法論が残されていないという事情も影響していると思われます。
何にしても、現在ではメタルバンドとハードコアバンドが同じフィールドで活動することは当たり前のようになり、以前であれば考えられないような組み合わせでのパッケージツアーやイベントも開催されるようになっています。
エモーショナルハードコア/スクリーモ
メロコア同様メロディーを重視した作風ですが、典型的なR&R系パンクではなくニューウェイヴ/ポストパンクやオルタナティグパンクの系譜に属しています。センシティヴで扇情的なメロディ/ヴォーカルラインを前面に押し出したサウンドが持ち味。
このエモーショナルなサウンドをメタリックなニュースクールハードコアやメロディックデスメタルとミックスしたスタイルはスクリーモと呼ばれ、今に至るメタルコアのベースとなるスタイルのひとつとなります。
スクリーモはバンドの多くがメタルコアシーンに流れており、今ではメタルコアのいち流派ともいえるポジションにあります。
メタルコア
ニュースクールハードコアやグルーヴコア,デスコア,スクリーモをベースに、ニューメタルなど新世代ヘヴィメタルのメソッドを取り入れて発展したスタイル。またそれらのクロスオーバー系ジャンルを総括する上位カテゴリーとしても使われます。
中でも北欧のデスラッシュやメロディックデスメタルのエッセンスを取り入れたスタイルは、米国やドイツをはじめとした世界的な流行となり、同様のアプローチが一気に増加しました。
今では、いわばニューメタルの最新モードと言ったポジションでシェアを拡大していますが、ニューメタルと呼ばれるのを嫌ってメタルコアという名称にこだわる向きもあり、これは“ニューメタル”というワードが持つセルアウトした商業メタルと言うイメージを忌避しているためとも考えられます。
ポストハードコア/マスコア
“ポスト〇〇”という名称の使われたからすれば、音楽性を問わず「ハードコア系またはハードコアルーツのバンドによる従来のハードコアとは異なるサウンド」ということになるのでしょうが、個々で定義も異なりイメージ戦略としても使われることが多い曖昧なジャンルです。
現在、ロック文脈での“ポスト〇〇”というジャンル名には、「プログレ」というワードが抱える様式美イメージを嫌っての言い換えという側面が強まっていますが、ポストハードコアも同様です。
実際、ポストハードコアには現代的なプログレアプローチのサウンドが多く、そこにはモダンプログレややはり“ポストメタル”と呼ばれることもある新世代プログメタルと大差ないものもあり、中にはかなり直接的なプログレリバイバルサウンドも見られます。
マスコアは、ポストハードコアの中でもテクニカルかつ複雑でめまぐるしい展開のスタイルを指すジャンルで、それらの多くはテクニカル&アバンギャルド系のデスメタル/グラインドコアやフリージャズなどから強い影響を受けたものです。
どちらにしてもほとんどの場合、本来ならプログレハードコアやテクニカルハードコアとでも呼ばれるべきサウンドの、便宜的な言い換えと考えて問題ないでしょう。