Contents
- 1メディアからクズ扱いのアンダーグラウンドの最先端バンドから、メンバーの死を乗り越えて世界一のセレブメタルに成り上がったカリスマ・メタルアイコンの明日はどっちだ?!
- 1...1METALLICAは最古のスラッシュメタルのひとつ?!
- 1...2METALLICAはスラッシュメタルBIG4の筆頭バンド?!
- 1...3NWOBHMフリークとしての知識を作品に反映?!
- 1...4つきまとうバートンとムステインの影?!
- 1...5METALLICAは暴君ツートップによるジャイアニズムバンド?!
- 1.1METALLICA|DISCOGRAPHY
- 1.1.1Kill 'em All|キル・エム・オール:血染めの鉄鎚(ハンマー)
- 1.1.2Ride the Lightning|ライド・ザ・ライトニング
- 1.1.3Master of Puppets|マスター・オブ・パペッツ:メタル・マスター
- 1.1.4The $5.98 EP - Garage Days Re-Revisited|ガレージ・デイズ
- 1.1.5...And Justice for All|...アンド・ジャスティス・フォー・オール:メタル・ジャスティス
- 1.1.6Metallica|メタリカ(通称:ブラックアルバム)
- 1.1.7Load|ロード
- 1.1.8Reload|リロード
- 1.1.9Garage Inc.|ガレージ・インク
- 1.1.10S&M|エス・アンド・エム
- 1.1.11St.Anger|セイント・アンガー
- 1.1.12Death Magnetic|デス・マグネティック
- 1.1.13Hardwired...to Self-Destruct|ハードワイアード…トゥ・セルフディストラクト
- 1.1.1472 Seasons|72 シーズンズ
- 1.1.14.1◎ METALLICAはコレを聴け!! ライターおすすめアルバム!
METALLICA|DISCOGRAPHY
Kill ‘em All|キル・エム・オール:血染めの鉄鎚(ハンマー)
オリジナル・スタジオフルアルバム – 1作目 (1983年)
「N.W.O.B.H.M.」の影響強い楽曲をハードコアなサウンドで仕上げたような本作は、当時としては異形ともいえるほど荒々しいエクストリーム・サウンドで、リアルタイムではマニア人気にとどまっていましたが、後に再評価が進み、今では最高傑作に押されることも珍しくありません。
事実、時代の扉を開く熱量の塊のような1枚で、捨て曲なしの隙のない楽曲群は、荒さや稚拙さを差し引いてあまりあるものであり、それだけでもMETALLICA屈指の名盤と認めるにやぶさかではありません。
アルバムの知名度やアンセム曲を含むバンドの代表作という意味では、やはり2nd,3rdに分がありますが、スラッシュメタルという枠で判断するならこの作品に匹敵するものは作り出せておらず、現在のバンドの二枚看板ジェイムズ・ヘットフィールドとラーズ・ウルリッヒのメタルセンスは、ここで絞り尽くされたようにも思えます。
もちろん、マテリアルだけ残してバンドを追放された、デイヴ・ムステインの存在が最重要なのは言うまでもありません。
某メタル誌が当時ゴミ扱いしてボロクソに叩いたことでも有名で、それは、後のデスメタルなどに対する態度と同様に某誌の不明の示すと同時に、保守メタラーには理解の外にある進化系ヘヴィメタルが生まれたことの証とも言えます。
|スピード:★★★★★
|グルーヴ:★★☆☆☆
|叙 情 度:★☆☆☆☆
|ロッキン度:★★★☆☆
|総合評価:★★★★★+
殿堂入り 通好み
Ride the Lightning|ライド・ザ・ライトニング
オリジナル・スタジオフルアルバム – 2作目 (1984年)
スラッシュメタルの入口として強烈なインパクトを受けたリスナーも多い作品で、確かに、T-01【Fight Fire With Fire】とT-05【Trapped Under Ice】は、バンド屈指のファストチューン。
スラッシュ黎明期だった当時の感覚でいえば、規格外に革新的で過激なサウンドだったのは間違いなく、オールドファンからは圧倒的な支持を得ているのも理解できます。
ただし、全体を見回すなら純粋な疾走曲は上記2曲と、アップテンポなT-07が加えられる程度で、アルバム半数以上はミッド〜スローのダウンテンポの曲。
さらには、メロウなバラード調の展開や、ドラマ性重視のプログレ的な凝った展開も見せるなど、楽曲の多様化と拡散が一気に進んで、この時点ですでにスラッシュの枠に収まらない曲が大半を占ています。
エクストリームでアグレッシヴなスラッシュ・アルバムとしては完璧な前作がありますし、有名曲を含む代表作としては次作の方が存在感で上回りますが、その『Master of Puppets(3rd)』と比較するならば、アルバムオリエンテッドな完成度ではこちらの方が上と言っていでしょう。
インパクトの強い前後2作品に挟まれ、近年ではやや影の薄い“通好みの1枚”といった印象さえあるものの、重要度/完成度共にキャリア中最上位に位置するスルーの許されないアルバムです。
|スピード:★★★☆☆
|グルーヴ:★★☆☆☆
|ロッキン度:★★☆☆☆
|叙 情 度:★★☆☆☆
|総合評価:★★★★★
殿堂入り 代表作 通好み
Master of Puppets|マスター・オブ・パペッツ:メタル・マスター
オリジナル・スタジオフルアルバム – 3作目 (1986年)
基本的には前作の延長線上にありながらも、より一層オーセンティックなヘヴィメタルに接近してポピュラリティを獲得した作品で、一般的にはバンド初期の代表作とされ、スラッシュメタルの名盤企画などでもほぼ確実に取り上げられるアルバム。
中でも、アナログでいえばA面に当たる前半の流れは見事で、特に冒頭の2曲はMETALLICA史どころかメタル史に燦然と輝く名曲ですし、T-08もシメを飾るにふさわしい佳曲です。
その一方で、おおむね佳曲のぞろいの中でもやや出来不出来の差が広がったり、その原因でもありのちに顕著となる悪癖の「曲がダラダラと無駄に長い」傾向が明確に現れたりという、マイナス要素も浮上しており、聴き手にとっては「いくつかの名曲がその失点をカバーできているか?」が評価の分かれ目となるでしょう。
また、欠点とはいえませんが、前作でも見られたミッドチューンには、次作以降の第2期に通じるグルーヴ・テイストが強まっており、今にして思うと、すでにムステインの遺産だけでは続けるのが難しくなるなど、いろいろな意味でバンドが方向転換を迫られていたことが理解できます。
名曲を有する名盤という顔の裏に歪なもうひとつの顔が透けて見えるとはいえMETALLICAやスラッシュメタルを語るならば履修必須の1枚と言わざるを得ませんし、メタルを俯瞰的に把握するためにも押さえておく必要のある重要作です。
|スピード:★★★☆☆
|グルーヴ:★★★☆☆
|ロッキン度:★★★☆☆
|叙 情 度:★★★☆☆
|総合評価:★★★★★
殿堂入り 代表作 入門盤
The .98 EP – Garage Days Re-Revisited|ガレージ・デイズ
カバー・ミニアルバム:EP (1987年)
〈DIAMOND HEAD(ダイヤモンド・ヘッド)〉と〈HOLOCAUST( ホロコースト)〉、さらに〈BUDGIE(バッジー)〉〈KILLING JOKE(キリング・ジョーク)〉〈THE MISFITS(ミスフィッツ)〉といった、METALLICAが影響を受けて作品にも反映されるほどの重要バンドのカバー曲で構成されたミニアルバム。
通好みな「N.W.O.B.H.M.」バンドやポストパンクやハードコアなど、一般のメタルリスナーにはあまり馴染みのないバンドの曲も並びますが、いずれも原曲の良さを彼らなりに料理したマニアックなセンスの良さが光る好盤。
お遊び的な作品ながら、彼らの取り上げたバンドが活動再開したり、メタルファンの中でも知名度を獲得するなど大きな波紋を巻き起こす契機にもなった重要作で、一時期は廃盤となってプレミア付きで取引されていました。
|選 曲:★★★★★
|アレンジ:★★★★☆
|意 外 性:★★★★☆
|通好み度:★★★★★
|総合評価:★★★★★
通好み
…And Justice for All|…アンド・ジャスティス・フォー・オール:メタル・ジャスティス
オリジナル・スタジオフルアルバム – 4作目 (1988年)
前作のヒットで勢いづいた矢先、ムステインに続いてクリフ・バートン(Ba.)までもを失い、やむなくベースレス(嘘)&センスレス(本当)でなんとかカタチにした、第二期METALLICAにとっての初のアルバム。
彼らが大ブレイクしてセレブ界へと羽ばたく切っ掛けにもなったメジャー展開作品ですし、ここでの、前作を踏襲したミッドグルーヴや苦し紛れの新機軸の変拍子リフが、後に〈PANTERA〉や〈MESHUGGAH〉といったより先鋭的でハイセンスなグループによって昇華され、「グルーヴメタル」や「ジェント」などのジャンル確立の引き金になったという側面もあります。
しかしながら、そんな歴史にとどめるべき重要な一面がありながらも、手放しで称賛することはできない作品です。
ニューステッドへの嫌がらせと伝えられるベース音カットの結果である、スカスカの音質が問題視されがちですが、なにより最大の問題は、現メンバーのコンポーザーとしての能力の低さと、にも関わらずその技量では届かない前作以上の大作主義に手を出して見事に失敗していることでしょう。
T-01はまだ及第点を与えられる仕上がりですし、PV化もされたT-04【ONE】は間違いなくバンド代表曲に数えられる1曲。
他の曲も部分的には美点も見られますが、全体で見れば、手の込んだプログレ的なことをやっている風で、その実、ただ切れ味の鈍い微妙な変則リフをダラダラとひたすら垂れ流している……という印象だけが残ります。
冗長なだけの長尺曲の数々は、現メンバーの力量をあらわにしているだけですし、一部で評価されがちな変拍子路線も、その変態性だけで金を取れるレベルではありません。
“ムステインの遺産とクリフのセンスと構成力無くしてはこれまでの音楽性でのクオリティ維持は不可能……”という事実を周知させる結果に終わりました。
日本盤は、ラストにボーナス曲として入った「N.W.O.B.H.M.」のカルトバンド〈DIAMOND HEAD〉の名曲カバー【The Prince】の存在で大きく救われており、これは英断と言えます。
好意的に見るなら、確かにアイデアにはユニークな部分もあり捨てがたい奇妙な魅力も感じさせもするのですが、それはどちらかというと、ロジカルなセオリーを持たずプリミティヴなセンスでつくられた「アウトサイダー・アート」から受ける印象に近いもの。
あるいは、ベテランがモダンなトレンドに接近した作品によく見られるような、スタイルと手法を理解/咀嚼しきれていない見様見真似の結果生まれた、いびつなユニークさに通じるとも言えます。
本作が“ファーストMETALLICA”だったリスナーも多く、いわゆる“初体験補正”や“リアルタイム補正”で高評価もされがちではあるものの、過去作には到底及ばず無理も生じているので、次作での路線変更は必要に迫られて“待ったなし”だったということなのでしょう。
|スピード:★★☆☆☆
|グルーヴ:★★★☆☆
|ロッキン度:★★☆☆☆
|叙 情 度:★★☆☆☆
|総合評価:★★★☆☆
代表作 賛否両論
Metallica|メタリカ(通称:ブラックアルバム)
オリジナル・スタジオフルアルバム – 5作目 (1991年)
黒いジャケット・アートワークから【ブラック・アルバム】とも呼ばれている、時代と環境が生んだ奇跡の名盤。
これをもって文字どおり真の“第二期METALLICA”・“新生METALLICA”と呼べるバンドに生まれ変わります。
前作はそれまでの勢いもあってセールスは上げたものの、さすがに主力が抜けた体制で初期に近い音楽性を続けることには限界と危機感しか無いようで、本作は腕利きプロデューサーボブ・ロックの全面バックアップと監修のもと、入念なリサーチとミーティングを重ねて大幅にスタイルを一新したとされています。
当時USシーンに台頭していた、〈ALICE IN CHAINS〉などのグランジ系ヘヴィ/ハードロックをヒントに、ヘヴィなグルーヴにサウンドの焦点を当てたハードロッキンなスタイルへとシフトしましたが、これが大いに功を奏しています。
この路線は、特にジェイムズ・ヘットフィールドの資質に合っていたようで、驚くほどのハマリっぶりをみせており、独特のコブシを効かせたヴォーカルスタイルも本格的に確立され、堂々としたアメリカン・ヘヴィロック・サウンドを展開しています。
作風やバンドの立ち位置の変化については当然のように賛否両論ですが、本作に対しては、好き嫌いはともかくクオリティまで否定するのはさすがに無理筋でしょう。
一部の保守的オールドファンは割り切りも必要とされるとはいえ、それについては、既に完全な別バンドとなった前作の時点から同様ですし、なにより、メタルファンを自称するならば一聴しておくべき重要アルバムであるという事実は、揺るぎようがありません。
|スピード:★★☆☆☆
|グルーヴ:★★★★☆
|ロッキン度:★★★★★
|叙 情 度:★★★☆☆
|総合評価:★★★★★
殿堂入り 代表作 入門盤 賛否両論 実験作
Load|ロード
オリジナル・スタジオフルアルバム – 6作目 (1996年)
前作に引き続きボブ・ロックの指揮のもと作られた今作は、基本的な音楽性は前作を踏襲したものですが、ストーナーロックや一連のポストグランジ系のグループなど、「N.W.O.A.H.R.(ニューウェーブ・オブ・アメリカン・ハードロック)」とでも呼ぶべき新世代アメリカンロックの影響を受け、大陸的で開放的なレイドバックした作風へと変貌を遂げています。
これにより、初期のスラッシュ路線や欧州メタル的構築美を期待するファンはもちろん、前作を支持したリスナーにまで大バッシングを受けることになりました。
しかし、このアメリカン・ハードロックをベースとしたスタイルは第二期METALLICAとは相性がは抜群で、曲数の多さが災いしてかややアラは目立つものの、クオリティは非常に高い水準にあります。
|スピード:★★☆☆☆
|グルーヴ:★★★★☆
|ロッキン度:★★★★★
|叙 情 度:★★★☆☆
|総合評価:★★★★★
賛否両論 通好み スルメ盤 実験作
Reload|リロード
オリジナルアルバム – 7作目 (1997年)
前作『Lord』ととワンセットの連作に近いアルバムで、作風は全く同じと言っていいほどに変化ナシ。
「当初は前作と2枚組になる予定だった」との触れ込みもありましたが、それは話半分と捉えたほうがいいかもしれません。
T-01,T-10という前作には無かったファストチューンが2曲のおかげで、本作の方を高く評価するファンも少なくありませんが、実際は前作のアウトテイクレベルの曲にテコ入れで新録を加えたような印象も漂い、明らかに一枚落ちる仕上がりです。
それでもセルフ・プロデュースに近いかたちの『Death Magnetic(9th)』以降に比べれば、はるかにクオリティが高いのが皮肉でしょう。
|スピード:★★★☆☆
|グルーヴ:★★★★☆
|ロッキン度:★★★★★
|叙 情 度:★★★☆☆
|総合評価:★★★★☆
賛否両論 通好み スルメ盤 実験作
Garage Inc.|ガレージ・インク
カバー・コンピレーション・アルバム (1998年)
EPカバー集『Garage Days』の収録曲に新録曲や他の既発曲を加え、2枚組のボリュームの全てがカバー曲のみで構成された企画盤。
新録曲として取り上げたのは、〈BLACK SABBATH〉〈BLUE ÖYSTER CULT〉〈THIN LIZZY〉〈LYNYRD SKYNYRD〉といったハードロック・クラシックのビッグネームが中心で、〈MOTÖRHEAD〉にいたってはなぜか4曲もカバーしています。
METALLICAは、カバーの選曲やアレンジセンスには今もなお定評があり、原曲も名曲ぞろいということもあり、近年のオリジナルアルバムよりもはるかに楽しめる仕上がりですが、90年代以降はジェイムズ節が強くなり過ぎということもあり、新録曲はそれによるクドさや単調さを感じることもあります。
何より、「かのMETALLICAもオリジナルよりカバー曲の方が楽しめるバンドになってしまった」……という現実を目の当たりにすると、熱心なファンでなくても一抹の寂しさを感じずにはおれません。
|選 曲:★★★★☆
|アレンジ:★★★☆☆
|意 外 性:★★☆☆☆
|通好み度:★★★★☆
|総合評価:★★★★☆
通好み スルメ盤
S&M|エス・アンド・エム
ライヴアルバム with オーケストラ (1999年)
お手軽シンフォメタルも増えて、もはや意外性も新鮮味も無いにもかかわらず、なぜかメタル業界では定期的に企画されるオーケストラとの共演作で、過去作をコラボしたライヴ・アルバムという体裁。
コラボにしろオーケストラによるカバーにしろこの手の作品は腐るほどありますが、そのほとんどが、せいぜいカフェ向けのボサノバ・カバーやレゲエ・カバーかという程度の当たり障りの無い仕上がりで、あえてこのスタイルで演る意味を感じられるアルバムとなると、思いつくのに苦労するほど。
この作品とて、結局のところ腐るほどあるその手の企画盤の1枚に過ぎず、例外的な成功作にはなりえていないため、これからユーザーの自宅や中古屋のCD棚で腐っていくのが確実な出来です。
結局のところ、バンド/オーケストラ/プロデューサーの全てが、企画力,アイデア力,アレンジ力,コラボ力諸々において力不足ということに尽きるのでしょう。
セルフカバーということで、原曲の良さでそれなりには聴けますが、「あのMETALLICAが音楽文化の象徴オーケストラを従えて…」というシチュエーションだけで、充足感を覚えられる一部リスナー以外にはオススメできません。
これではアンチメタル層から、“メタル=クラシックコンプレックス”という定番の誹りを受けても何も言い返せませんね。
|選 曲:★★★☆☆
|アレンジ:★★☆☆☆
|意 外 性:★☆☆☆☆
|通好み度:★☆☆☆☆
|総合評価:★★★☆☆
入門盤 賛否両論
St.Anger|セイント・アンガー
オリジナル・スタジオフルアルバム – 8作目 (2003年)
前作から一転、アグレッシヴで疾走感を持ったサウンドに生まれ変わり、これでオールドファンも納得…かと思いきや、これまた賛否両論だったアルバム。
この当時はニューメタル全盛の時期でしたが、それらのスタイルを取り入れるのは自分たちには向かないと判断しのか、本作では90年代のブームの名残があったハードコアや、そこからブームが派生したガレージロック風のエッセンスを取り入れて、イメージの一新を図るアプローチをとっています。
作風も初期のスラッシュ路線とは異なったもので、実のところベーシックな部分はこれまでの第2期スタイルを踏襲したものなのですが、サウンドはラフなローファイ風でロウでジャンクな質感を持った、ややクセのあるもの。
このローファイ風なプロダクションで隙間の多いサウンド…特にスネアドラムの処理がメタラーにウケが悪く、評価は“否”寄りの賛否両論ですが、不評については保守的嗜好からくる過小評価の面が強いとも言えます。
楽曲のクオリティに限って言えば、本作までの参加となったボブ・ロックの手腕もあって高い水準で安定しており、特に冒頭2曲は後期の代表曲として黄金期の名曲と並べても恥ずかしくない完成度のキラーチューン。
ただし、CD容量MAXまで曲を詰め込む当時の悪習の弊害もあって、中盤以降やや似たような曲調が目立って少々ダレ気味な点と、相変わらずの無駄な長尺傾向はマイナスポイントです。
|スピード:★★★★☆
|グルーヴ:★★★☆☆
|ロッキン度:★★★★☆
|叙 情 度:★☆☆☆☆
|総合評価:★★★★☆
賛否両論 通好み スルメ盤
Death Magnetic|デス・マグネティック
オリジナル・スタジオフルアルバム – 9作目 (2008年)
スラッシュメタル再評価の機運が高まり、インスパイア系バンドや再結成組で活気付く中のアルバムで、ここでは、プロデューサーに重鎮リック・ルービンを迎えています。
賛否両論あれどクオリティの向上に貢献して最盛期を支えた盟友ボブ・ロックから、ベテランにはとりあえず原点回帰を促して好きにやらせるルービンを起用したのは、「スラッシュリバイバルへ便乗するエクスキューズでは?」…という勘ぐりもできてしまいます。
そんな中、スラッシュ回帰という噂も聞こえてファンの期待も高まりますが、結局のところ初期3作はあくまでデイヴ&クリフの遺産に過ぎず、現体制での原点は4作目の『メタルジャスティス』。
そして、このメンツでの限界はその『メタルジャスティス』での凋落ぶりに示されています。
原点回帰しようにも最初期に戻るセンスはもはや無く、本気で黄金期のスラッシュサウンドを取りもどしたければ、デイヴ・ムステインにでも頭を下げるしかありません。
案の定、『メタルジャスティス』のメソッドを同時代の作風でブラッシュアップした本作は、微妙なリフをひたすら垂れ流す単調なスタイルや、無駄に長尺でメリハリに欠ける曲までも極めて忠実に再現した作品に……。
部分的には光るものゼロではないので、これで名曲【ONE】に匹敵するアンセムまで再現できれば印象もプラスに傾いたしれませんが、残念なことに力及ばずでした。
むしろ、爆死覚悟で初期3作路線にチャレンジした方が良くも悪くも面白い結果になったハズなのですが、ルービンが「お前らにはムリだ」というとも思えないので、本人たちが自重したのか、『メタルジャスティス』こそ現体制の原点という意地があるのか、そのどちらかでしょう。
|スピード:★★★☆☆
|グルーヴ:★★☆☆☆
|ロッキン度:★★★☆☆
|叙 情 度:★★☆☆☆
|総合評価:★★★☆☆
賛否両論 お布施
Hardwired…to Self-Destruct|ハードワイアード…トゥ・セルフディストラクト
オリジナル・スタジオフルアルバム – 10作目 (2016年)
ピークを越えたベテランバンドの作品にありがちな、いわゆる“キャリア総決算スタイル”で、これまたピークを越えたベテランバンドの作品にありがちな2枚組77分余りのボリュームのお布施対象作品。
D1のT-01,T-02や、D-2のT-06などのファストチューンをはじめ比較的アグレッシヴでアップテンポな曲も多いため、速い曲があるだけで満足できるならばそれなりに楽しめるかもしれませんが、真面目に評価するに値する作品かは疑問です。
とにかく、今のメンツでメタルっぽい音でジャムればこうなるだろうな……という、ボキャブラリーのやりくりと手癖感だけしか感じられないアルバムで、楽曲の出来栄えも軒並み凡庸。
一部で、「N.W.O.B.H.M.」の匂いが云々…という声もありますが、その影響の濃かった初期のリフを使いまわしているので、それは当然でしょう。
聴いていてストレスが溜まるほどではないものの、聴いた後には見事に何も残らないまるで引っかかりの無い楽曲が目白押しで、レア・トラックスやファンクラブの特典アイテム程度ならともかく、腐っても全米トップの位置にあるバンドがよくこれを正式な作品としてリリースする気になったものです。
無理やり2枚組に仕立てているあたりも印象を下げており、熱心なサポーターやCD棚のMETALLICAブースに“抜け”を作りたくないマニアには“必携盤”でしょうが、“必聴盤”と呼ばれることだけは決してないでしょう。
|スピード:★★★☆☆
|グルーヴ:★★★☆☆
|ロッキン度:★★★☆☆
|叙 情 度:★☆☆☆☆
|総合評価:★★☆☆☆
賛否両論 お布施
72 Seasons|72 シーズンズ
オリジナル・スタジオフルアルバム – 11作目 (2023年)
基本は『Hardwired…to Self-Destruct(11th)』と『Death Magnetic(10th)』の間に位置するような音楽性で、ジャムの延長上のようにラフでロッキンだった前作と比較すると、整合感が増してサウンドもソリッドなものとなりました。
前作と同様に、「N.W.O.B.H.M.」の影響の濃い初期作品を想起させる曲もあり、また、前々作のような『メタル・ジャスティス』風もあれば、『ブラック・アルバム』風も見られ、現ラインナップによるメタル路線の総決算という趣。
しかし、要素はいろいろと盛り込んだものの、その仕上がりとなると、まるで“メタリカ・フリー素材”のツギハギか、はたまた“メタリカ A.I.”に作曲させたか…という始末で、『MOTORHEAD』や『AC/DC』が進取的かつ多様・多彩に感じられるほど。
単なる直接的なリフやフレーズの流用に終わっており、ここ数作続くどこを切ってもどこを聴いても既聴感だらけな、悪い意味で手癖満載な“ダメな金太郎飴”状態を引きずっている点は問題と言わざるを得ず、評価が割れるポイントのハズですが、そんな様でも旧作ファンにとっては、逆には引っかかりがあって馴染みやすいのかもしれません。
往年の名盤はおろか賛否両論の『Load(6th)』〜『St.Anger(8th)』にさえ及ばないクオリティについても変わらずですが、T-06はそれなりにフックの効いた佳曲ですし、T-01,T-01,T-11といったファストチューンは勢いですんなり聴くことが出来ます。
その他の曲についても少なくとも前作よりは底上げされており、前作が「最後の1日で仕上げた夏休みの課題」とするなら、本作は「3日くらいはかけた?」…と思える程度にはつくり込んだ印象。
そのためか、相変わらずほぼマイナス要因でしかない無駄な長尺志向が、何の反省も無く繰り返されている関わらず、直近2作ほどにはそこに気を取られずに済んではいます。
とはいえ、いずれの楽曲も本来ならばシングルB面かボーナストラックあたりが関の山のレベルで、楽曲単位では「悪くないかも?」と思え瞬間はあっても、右から左へ耳から耳へとスムーズに通過して、リスニング後にはぼんやりした印象だけが残るのみ。
主力不在の出涸らしとも呼ばれる現在のMETALLICAですが、それでも、『Load(6th)』『Reload(7th)』には作風は変われど『2nd』や『3rd』並の多様性があり、『St.Anger(8th)』では過去のどれとも重ならないスタイルを創造していました。
それを考えると、ここ数作では創作活動で心身をすり減らすこと厭って、自分たちの立ち位置にふさわしいミュージシャン・シップと作品の追求よりも、余分なストレスで負担にならない御座なりの手癖商品生産でお茶を濁す道を選んだように思えます。
もし全力で練り上げた結果でこの有様ならば、それはそれで事態はより深刻ともいえます。
|スピード:★★★☆☆
|グルーヴ:★★★☆☆
|ロッキン度:★★☆☆☆
|叙 情 度:★☆☆☆☆
|総合評価:★★★☆☆
賛否両論 スルメ盤
◎ METALLICAはコレを聴け!! ライターおすすめアルバム!
METALLICAは時期によって音楽性が極端に異なるので、リスナーの好みでおすすめも大きく変わります。単純に定番の代表曲が聴ける代表作ということならMaster of Puppets(3rd)につきるでしょう。ただし、激しさにあふれたスラッシュメタルを求めるなら全編テンションみなぎるKill ‘em All(1st)か“METALLICAで最も速い!”とされる曲を含むRide the Lightning(2nd)あたりから入った方がいいかもしれません。より現代的なサウンドや普遍的なヘヴィロック/ハードロックサウンドを求めるならブラックアルバムことMetallica(5th)がオススメです。