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【問題作】MORGOTH / Feel Sorry for the Fanatic|モーゴス / フィール・ソーリィ・フォー・ザ・ファナティック – (1996)

MORGOTH_Feel_Sorry_for_the_Fanatic インダストリアル
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オールドスクールなデスメタルから始まりアルバムごとにアプローチを変えてサウンドを更新し続けたジャーマンデスメタルシーンが誇る実力派がついやりすぎた問題作!!

ドイツはヨーロッパエリアではイギリスに次ぐメタル先進国として、メタル黎明期からパワーメタル/スラッシュメタル全盛期にかけては欧州随一の隆盛ぶりを見せまてしたが、デスメタル全盛期はそれまでと違ってはいまいちパッとせず盛り上がりに欠けていました。

もともとジャーマンスラッシュはデスメタルに匹敵するエクストリームな作風が多く、古くからHOLY MOSES(ホーリィ・モーゼス)PROTECTOR(プロテクター)といったプレデスメタルも輩出していたため、デスメタルにそれほど新しさや特殊性を感じていなかったことも、その一因となっているのかもしれません。

そんなドイツシーンで中でも、ATRICITY(アトロシティ)と並ぶ新鋭ジャーマンデスメタルの二大巨頭として、強烈な存在感を示していたバンドがこのMORGOTHです。

彼らはチープなブルータルデスメタルとしてデビューしますが2枚のミニアルバムを経て大きく成長を遂げ、1991年の1stフルレンスのCursed(カーズド)では、完成度の高いゴシック的美意識にあふれたブルータルデスメタル(ゴシックメタルではない)を、1993年のOdium(オディウム)では一転して耽美的なデコレーションを取り払った、ソリッドでハードコアなグルーヴを持ったサウンドを作り上げます。

それに続く作品こそが、最大の問題作にして解散につながる原因にもなった、3枚目のフルアルバムFeel Sorry for the Fanaticです。

MORGOTHのFeel Sorry for the Fanaticはなぜ問題作と呼ばれるのか?

彼らもATRICITYと同様にドイツのバンドらしい実験精神にあふれていて、アルバムごとに異なったスタイルの作品を作り上げていたので、賛否が別れるのは毎度のことと言っていいでしょう。
前作Odiumリリース時にも、その前のCursedと大きく印象の異なる仕上がりに賛否両論あったのですが、本作はそれすら大きく上回る問題作ぶりでした。

その、問題作ポイントとしては…

①インダストリアル化した。
②デスメタル要素がなくなった。
③オリジナリティが微妙。

①インダストリアル化した。

毎度おなじみインダストリアル化への反発ですが、彼ら場合スラッシュメタル勢のインダストリアル化やPANTERA化とは少し事情が異なります。
すでに衰退していたスラッシュと違って、デスメタルは認知度も高まり勢いを増してビジネス的にはまだまだ伸び盛りだったので、スラッシュ勢のようにドン詰まりになってサバイヴのために無理な路線変更を余儀なくされたわけではありません。

本作がリリースされた90年代中期には、オールドスクールなデスメタルは最先端のヘヴィメタルムーヴメントとしての役目は終えて既に様式化が進んでいたこともあり、進歩的な意識高い系のデスメタルバンドは次々と路線変更を試みている時期でもありました。

ジャーマンデスメタルには先鋭的なグループが多く、完成度の高いテクニカルデスを作り上げて評価を得ていたATRICITYも早々にデスメタルをスタンダードから脱却していましたし、MORGOTHの変化もその流れを汲んで自発的になされたものと考えてよいでしょう。
インダストリアルサウンドに抵抗感があるリスナーには残念ですが、これに対するリスナーの批判は決して“良し悪し”での判断ではなく、単なる”好き嫌い”によるものでしかありません。

②デスメタル要素がなくなった。

気になるのはむしろこちらですね。デスメタルのインダストリアル的アプローチ自体はそれ以前からも見られたものですが、基本のサウンドやヴォーカルスタイルなどにデスメタル要素を残した上でのクロスオーバーが多い中、このアルバムでは完全にデスメタル要素をオミットしていて、知らずに聴いたらとてもMORGOTHとは気づかないレベルに到達しています。

これまでのMORGOTHの経緯を考えればここでもまた新たな手を打ってくることは想定内でしたが、ここまでラディカルな変化は想像できませんでした。
「インダストリアル化」ではなく「脱デス」を理由に離れたリスナーも多かったと思われますが、ここまで大きな変貌を見せられればそれを狭量と思えても無下に否定することはできませんし、裏切られたとゴネるのを単に「見極めが甘い」と切り捨てるのもさすがに気の毒でしょう。

③オリジナリティが微妙。

さらに問題になるのがこれです。
この時期エクストリームメタルシーンでは、80年代ニューウェイヴ/ポストパンクの再評価の機運やゴシックメタル/インダストリアルのブレイクを背景に、それらの原点にあたるサウンドにインスパイアされたアプローチがひとつのモードになっていおり、当のゴシックメタル勢ですら、よりニューウェイヴ/ポストパンクサウンドに接近する傾向が一部にありましたが、その極端な例が特定アーティストの“インスパイア系”サウンドです。

MORGOTHが選んだ“インスパイア系”のお手本は、インダストリアルメタルのルーツともされる英国ニューウェイヴ/ポストパンクシーンの重鎮KILLING JOKE(キリング・ジョーク)、ここで聴けるのは特に一時期ややダンサブルなインダストリアルメタルに接近していた頃のちょっと通好みなサウンドに近いもので、この時期のKILLING JOKE未発表音源と言われても納得しそうになるほどのなりきりぶりです。

“インスパイア系”サウンドとは

“インスパイア系”とは、特定のジャンルやアーティストに対する敬愛から、部分的に影響を受けるにとどまらず、サウンドや作風を意識的に模倣するまでに至ったスタイルのこと。

この時期のメタルシーンでは、このアルバムで聴けるような“ニューウェイヴ/ポストパンクインスパイア系”とでも呼ぶべきスタイルが時折見られました。
例えば、ALL ABOUT EVE(オール・アバウト・イヴ)COCTEAU TWINS(コクトー・ツインズ)ら歌姫系ゴシックをインスパイアしたスタイルでブレイクしたTHE GATHERING(ギャザリング)PARADISE LOST(パラダイス・ロスト)DEPECHE MODE(デペッシュ・モード)インスパイアで作り上げたHost(ホスト)EDGH OF SANITY(エッジ・オブ・サニティ)によるSISTERS OF MERCY(シスターズ・オブ・マーシー)インスパイア曲など。

ジャンルを広げれば、ドゥームメタルによく見られる“初期BLACK SABBATHインスパイア系”や、LAE ZEPPELIN(レッド・ツェッペリン)インスパイアのKINGDOME COME(キングダム・カム)GRETA VAN FLEET(グレタ・ヴァン・フリート)など“レッドクローン系”バンドも同様の手法ですね。

“インスパイア系”は悪なのか?

この“インスパイア系”が逃れることができないのが“アイデンティティー問題”で、「ただのパクリじゃないか!」と言われてしまえば一言も返すことができません。

それでも、アルバムに1曲程度ならさほど問題になりませんし、最初からそういうコンセプトのバンドとして展開していればリスナーも割り切ることができるのですが、自分たりならではの独自性をアピールしてきたグループが唐突に“インスパイア系”にハシってしまうと、リスナーの居心地が悪くなってしまうのは避けられないですね。

とはいえ、これは元ネタのチョイスとアレンジ次第で、バンドのセンスが評価される面もあります。
誰も目もくれなかった素材を選んだり埋もれていた素材を発掘して、リスペクトを持って上手く料理すれば好事家から認められることもありますし、逆にベタなド定番を元ネタにしたインスパイア系になると、もはや1周以上回ってスタンダードということでツッコミが甘くなりがちです。

また、元ネタが丸わかりでもそれに拮抗できる地力を持った独自性があったり、巧みなアレンジセンスで別のステージに持っていった作品を提示できれば、いくらうるさ方でも頭ごなしに否定はできなくなるでしょう。
最終的にはバンドがこれまで蓄積して血肉にしたバックグラウンドと、単なるモノマネに終わらせないセンスと技量がモノをいうとことになるわけですね。

結局のところMORGOTH/Feel Sorry for the Fanaticは作品としてどうなの?

正直なところ、“インスパイア系”路線という方向性をチョイスした以上「パクリ」や「焼き直し」というツッコミからはどうやっても逃れられず、その批判を無効化するなら、例えばCATHEDRAL(カテドラル)が1stで見せた“BLACK SABBATHインスパイア”レベルの独自の換骨奪胎ぶりや、GODFLESH(ゴッドフレッシュ)NUEROSIS(ニューロシス)による“SWANSインスパイア”に匹敵するプラスαを提示できないとお話になりません。そういう意味ではこのアルバムは、かなり微妙な境界線上にある作品なのは確かです。

もちろん彼らほどの実力派ですから完成度の高さでは申し分のない作品であることは間違いありませんし、それなりに自分たちのアイデアを加えて色を出そうとしている事は見て取れます。
しかし、あと一歩踏み込んだアレンジやもうひとヒネリのアイデアが足りておらず、単なる“インスパイア系”の枠を超えるには至っていません。彼らがアルバムごとに全くスタイルを変えてきたことも、“MORGOTHらしさ”の確立を阻んできた要因になっているのかもしれません。

ただし、それほどオリジナリティに固執せず“インスパイア系”にも寛容なインダストリアルメタルリスナーならば、この作品は少なくとも1~2年に1枚レベルの以上の快作なのは確かなので一聴の値打ちはあります。

MORGOTH/Feel Sorry for the Fanatic
問題作度:★★★★☆
一般評価:★★☆☆☆
筆者評価:★★★★☆
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