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ゴシックメタルムーヴメントの火付け役として唯一無二の革新的メタルサウンドを完成させたゴシックメタルマスターが頂点を極めた後の変革期に生み出した実験作!
ゴシックメタルの創始者としてシーンを牽引してきたPARADISE LOST(パラダイス・ロスト)は、90年代以降の英国ヘヴィメタルを代表するバンドのひとつ。
彼らは初期から中期にかけては様々なスタイルを試みていて、作品ごとに大きくスタイルが異なっていましたが、中でも異色作で賛否も別れる問題作が、7作目にあたるHost(ホスト)です。
“ゴシックメタルとは?”についてはジャンル紹介記事を参考にしていただくとして、まず彼らのサウンドの変遷についてザックリ解説しておきます。
スローでダウナーなデスメタル“ドゥームデス”としてキャリアをスタートした彼らは、そこにゴシックロック風のオーケストレーションな女性コーラスを加えた2作目Gothic(ゴシック)でゴシックメタルの創始者となります。
その後、エクストリームメタルをベースに、ニューウェイヴ,プログレッシヴ・ロック,70年代ヘヴィロックなどの影響とそれまで培ったアイデアを高いセンスで取捨選択して再構成した、前例のない彼ら独自のゴシックメタルスタイルを確立させます。
アルバムごとにデスメタルのヘヴィメタル的な過剰さを削りながら、ニューウェーヴ由来する耽美的を持つ独創的なメロディーを押し出す方向で進化してゆきますが、6作目のOne Second(ワン・セカンド)でそのコンセプトの完成形といえる到達点に達します。
自ら開拓したゴシックメタルというジャンルの中でいくつものスタイル試み、それぞれのスタイルごとにこれ以上望めないレベル作品を作り上げて頂点を極めたしまった彼らが、次の一手として繰り出したのがこのHostというわけです。
問題作PARADISE LOSTのHostが生まれた背景は?
彼らは前作One Secondまでに、デスメタル的な過剰さやゴシック色を強調するための装飾過多から脱却して、独創的なメロディを強調しつつもシンプルなかたちでニューウェイヴとヘヴィメタルの完全な融合を果たし、当然ながら次の方向性も大いに注目されていましたが、結論から言うと色々な意味で微妙に肩透かしな仕上がりでした。
前作One SecondからこのHostにかけての時期は、彼らと同時期にドゥームデスからスタートした先鋭的なゴシックメタル第1世代の転換機で、多くのバンドが次々とスタイルを大きく変えた実験的/革新的な作品をリリースしていました。
PARADISE LOSTのHostは何故ゆえ問題作と呼ばれるのか?
② やや独創性が薄い。
③ “捨テ曲ナシ伝説”に陰りが…。
① すでにヘヴィメタルではない。
このHostで聴けるサウンドは、確かにデスメタルはおろかヘヴィメタルとさえ呼べないものでした。具体的に言うなら、英国ニューウェイヴバンドDEPECHE MODE(デペッシュ・モード)のインスパイアしたかのようなニューウェイヴリバイバルサウンドです。
ゴシックメタル黎明期に活動していたバンドにはヘヴィメタル様式美からの逸脱を目指す流れがあったので、ANATHEMA(アナシマ),TIAMAT (ティアマト),THE GATHERING(ザ・ギャザリング)など多くのバンドが、この時期を境に永続的にしろ一時的にしろ脱メタルを試みていました。
ゴシックメタルのパイオニアたる彼らも例外ではなく、このHostはその到達点に位置する作品にあたります。
音楽性の変化に対する好き嫌いと作品としての良し悪しは別問題なので、保守派リスナーの気持ちは理解できますが客観的に見れば作品に対する批判としては的外れでですね。
② やや独創性が薄い。
気になるのはむしろ②ですね。
これまではエクストリームメタルにニューウェイヴ系ゴシックロックのテイストを取り入れつつも、誰にも似ていないオンリーワンの独創的なスタイルを作り出していた彼らにしては、かなりストレートなDEPECHE MODEインスパイアを追求した作風はどうにもらしくない印象があります。
音楽の変化が大きいものの実験性や独自性が薄いアプローチは、守備範囲の多いリスナーにとってはかなり物足りなさが残るものでした。
③ “捨テ曲ナシ伝説”に陰りが…。
何より最大の問題は③です。
あくまで過渡期の音だった1st以降、ほぼ捨て曲が見当たらないアベレージの高さを誇っていたPARADISE LOSTですが、本作はクオリティではかなり高いレベルを維持しているものの、卓越したソングライティングセンスで完璧に近い完成度を誇っていた過去作と比較すると、そのあたりにやや陰りが見えてしまっています。
新たなサウンドを模索した結果の消化不良という部分もあると思われますし、迷走気味のスランンプ作の次作以降は波はあるものの高水準のクオリティで作品をドロップし続けますが、それでも以前ほどの輝きは見られなくなったことを考えるとひとつのピークを過ぎてしまったと考えた方が自然でしょうか?
結局のところ、PARADISE LOSTのHostはてどうなのさ?
このHostは、PARADISE LOSTの過去作と比較してしまうと彼ららしい独創的な切り口にかけるあたりがどうしても気になってしまいますが、“DEPECHE MODEインスパイア”とは言いつつも彼らなりの解釈によるサウンドを作り出し、クオリティも本家に負けないレベル仕上がっています。
DEPECHE MODEのサウンドに触れたことがない人は新鮮でしょうし、オルタナティヴ路線に以降したANATHEMAやTHE GATHERINGがストライクというような、メタルサウンドにこだわらず「コレはコレ」として聴ける音楽的なキャパが大きいリスナーなら、PARADISE LOST流のニューウェイヴリバイバルサウンドとして十分に堪能できる作品です。
必聴作とはさすがに言えませんが、“代表作はひと通りチェック済み”というファンなら一聴の価値はありますし、彼らのルーツとなったアーティストを深掘りするための肩慣らしとしても最適です。
問題作度:★★★★☆
一般評価:★☆☆☆☆
筆者評価:★★★★☆