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USインダストリアルメタルのパイオニアとしてヘヴィメタルシーンに衝撃を与え革命を起こした鬼才が、あえて売れ筋サウンドを捨てて作り上げた意欲作!
鬼才アル・ジュールゲンセン(Al Jourgensen)率いるMINISTRY(ミニストリー)は、USインダストリアルメタルのパイオニアとして初期のムーブメントを牽引する存在でした。
メタルギターを大胆にフィーチャーした1989年の4作目The Mind Is A Terrible Thing To Taste(ザ・マインド・イズ・ア・テリブル・シング・トゥ・テイスト)と1992年の5作目Psalm69:ΚΕΦΑΛΗΞΘ(詩篇69)で、ラウド系インダストリアルの頂点に立ったMINISTRYは、生半可なヘヴィメタルやハードコアが裸足で逃げ出すヘヴィネスとアグレッション、そして圧倒的な破壊力を手にしていました。
そのサウンドは“デジタルスラッシュ”とも呼ばれ、MEGADETH(メガデス)らメタル界のトップアーティストが注目すべきフェイバリットバンドに名前を挙げ、ライヴの客入れBGMなどに使っていたこともあってか、保守的な日本のメタルファンからも一目置かれていたほどです。
大ヒットしたPsalm69:ΚΕΦΑΛΗΞΘに続いて、1996年に満を持してリリースしたアルバムが、スーツ姿の男性が遅の滴るナマ肉を頭に乗せたジャケットが印象的なこのFilth Pig(フィルス・ピッグ)です。
ところが、前作を踏襲したデジタルスラッシュを期待していたリスナーはこのアルバムに落胆することになり、アルバムセールスもチャート順位も前作に比べるれば全く振るいませんでした。
MINISTRY / Filth Pigが問題作とされる理由は?
② 暗くて、ダルくて、わかりづらい。
③ そもそも評判を気にしてない?
① アッパーなデジタルスラッシュナンバーが1曲も無い。
まず、これが最大の原因ですね。
まぁ、正直なところこれが理由で売り上げが伸び悩んだり批判を受けるのは、ある意味仕方ないというか、想定できていたことだとは思います。なにしろ、前2作をヒットに導いてMINISTRYの名声を高めた最大のポイントであり、多くのファンが期待していたデジタルスラッシュナンバーが完全にオミットされていたわけですからね。
個人的にもチョッと肩透かしをくらった感は否めなませんでしたし、前作あたりで新規に大量参入した過去作を知らないメタル系リスナーなら尚更のことでしょう
② 暗くて、ダルくて、わかりづらい。
じゃぁ、どんな音楽性になったのでしょうか?
今回はアッパーで突進力のあるデジタルスラッシュからガラリと趣きを変えて、アルバム全体がウルトラヘヴィなミドル/スローテンポのサウンドで覆い尽くされていました。
かといってアルさんのことですから、今さらチョイ前トレンドのグランジやグルーヴメタルに寄せてきたわけではありません。
確かに、このアルバムにもヘヴィなグルーヴは充満していますが、ここで聴けるのはそれ以上にダークでディープなダウナー感にあふれたサイケデリックでフリーキーな個性派サウンドです。
MINISTRYというと、どうしてもシーンに強烈なインパクトを残したデジタルスラッシュナンバーがクローズアップされがちですが、過去作やREVOLTING COCKS(リヴォルティング・コックス)をはじめとしたアルさん関連のユニットを聴けばわかるように、これらの多面的な音楽センスは彼本来の持ち味なわけです。
重戦車的な圧力とオルタナティヴなセンスを持ったヘヴィなインダストリアルメタルというと、英国のGODFLESH(ゴッドフレッシュ)などが思い浮かびますが、このFilth Pigはそれに近いテイストを感じさせつつもひと味もふた味も異なる、フリーキーでサイケデリックなMINISTRYの一面が十二分に味わえるアルバムです
ただ、スロー〜ミドルテンポで攻めるしても、もっとわかりやすくキャッチーな楽曲がつまっていれば反応も違ってきたんでしょうが、全体を通して良く言えばストイック悪く言えば少々フックが弱い仕上がりになっているので、受けが悪いのもやむなしではあります。
③ そもそも評判を気にしてない?
考えるまでもなく、アルさんがその気になれば高品質なデジタルスラッシュなどいくらでも量産できることは、のちのアンチブッシュ3部作で明白です。
それに、当時はFEAR FACTORY(フィア・ファクトリィ),MARILYN MANSON(マリリン・マンソン),White Zombie(ホワイト・ゾンビー)ニューメタル系のインダストリアル新世代の登場で、再度インダストリアルメタルが活性化しつつあった時期です。
クレバーなアルさんのこと、アッパーでラウドなデジタルスラッシュで攻める方が、ビジネス的にもアンパイ策なのは織り込み済みのハズ。
にもかかわらずデジタルスラッシュをオミットしてこういう路線を選ぶあたり、イメージ以上に商売っ気よりもアーティスティックな創作意欲やコンセプトを重んじているのかもしれません。
どちらにせよ、あえてあのタイミングでこの作品を出してくるあたりに、アルさんの一筋縄ではいかないひねくれ具合が見えて、そこにシビれるわけですね。
早すぎた傑作? MINISTRYのFilth Pigは結局のところどうなの?
アンチ商業主義で自分たちの一面を表現しただけにも見えるFilth Pigですが、もしかするとそれなりに勝算があったと思われる節もあります。
というのもここで聴けるサウンドには、のちに大きくブレイクするTOOL(トゥール),NEUROSIS(ニューロシス),MESHGGAH(メシュガー)といった新世代ヘヴィロック、そしてそれらの影響下にあるネオプログレやポストハードコア/ポストロックのサウンドにも通じるエッセンスが濃厚に漂っているからです。
それを考えると、Filth Pigは「あまりにも先鋭すぎるゆえに微妙に世に出すタイミングを外してしまった“早すぎた名作”である」という見方もできてしまいます。
実際、ライトなリスナー受けこそかんばしくありませんでしたが、作品としての完成度は過去のヒット作に匹敵するもので、マニアックなリスナーや好事家からは高く評価されていました。
さすがに彼らの代表作とか歴史的名盤などとは言かねますし、ファーストMINISTRYとしてビギナーにおすすめすべき1枚というわけでもありませんが、MINISTRYとアル・ジュールゲンセンの別の側面を堪能することができる、捨てがたい魅力のある力作なのは間違いありません。
問題作度:★★★★☆
一般評価:★★☆☆☆
筆者評価:★★★★☆