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安心のTESTAMENT印!? アベレージスラッシャー最初で最後の冒険?
TESTAMENTというバンドは、スラッシュ勢の中でも非常に安定感のあるバンドです。
時代によって音楽性の変化が無いわけではないけれど、根本的な部分がブレないし「TESTAMENT節」とも言える個性を確立していて、多少変化してもそれをねじ伏せる説得力がある。さらに、メンバーの入れ替わりも多くて、トラブルを抱える時期がありながらも、比較的とコンスタントに水準以上のクオリティのアルバムを発表してくれる。
アルバム単位での好き嫌いは仕方のないところですが、基本ファンを裏切らない信頼度の高いバンドです。
そんなTESTAMENTですが、一度だけファンを唖然とさせる作品をリリースして、賛否両論を巻き起こしたことがあります。そのアルバムがこのDEMONICです。
問題作扱いされる理由は?…
ファンを驚愕させた問題ポイントをあげると…
②…ミドルテンポ中心で疾走曲がほとんどない。
③…音がモダンヘヴィ路線になってしまった。
というところ。言ってしまえば「TESTAMENTがこの後に及んでPANTERAとデスメタルに染まっちまったよ〜!」というとこでしょう。
① ヴォーカルが全編デス声になってしまった。
ヴォーカルのチャック・ビリーは、すでに前作LOW(ロウ)で、ドスの効いたデス声を初披露してくれていましたが、今回は全編にわたってそのスタイルで攻めてます。
チャックはその時期によって多少変化はあるものの、基本的にはヘタウマながら力強い声とこぶし回しで歌い上げるヴォーカルスタイルに味があって、そこにシビれるファンも多いんですが、今作ではのその持ち味をほぼ完全にオミットしてきました。
そうはいっても、「これが地声なんじゃないの?」と思うくらいナチュラルな凄みがあるデス声で普通に歌い上げるスタイルは、凡百のデス系ヴォーカルには真似できない域に達していて、文句のつけようがありません。
ただし、この変化でいつもより歌唱法の幅が狭まっているのは確かで、それがマイナス要素だというそしりは仕方がないですが、それ以上にデス声に対する単純な拒否反応の方が大きかったように思います。
デス声がJ-POPのネタになるほど形骸化した今では考えれませんが、すでにデスメタルがムーブメントを終えメジャー化を迎えていたこの時期でさえ、まだデス声に対する抵抗が強かったということでしょう。
② ミドルテンポ中心で疾走曲がほとんどない。
これは否定のしようがありませんが、それによって楽曲の質が下がっているわけでもありませんし、もはや「スラッシュ=速いだけ」の時代でもありません。
結局のところ単なる好き嫌いの問題になってしまいますが、1~2曲でも疾走曲を収録していればメリハリがついて、スラッシャーへの印象も良くなっていたかもしれません。
③ 音がモダンヘヴィ路線になってしまった。
これについても気持ちはわかりますが、これを批判するのであればその根っこは②同じで単なる好き嫌いの問題でしかない話です。
音作りについては、すでに前作Lowの時点でこのモダン路線にへの変化を見せていたので、このDeonicだけそれを理由に否定するのはお門違いでしょう。
実際のところ作品としてはどうなの?
TESTAMENTは疾走曲以外でも名曲を生んできた実績があり、全編ミドルテンポながら粒ぞろいで完成度の高いThe Ritual(ザ・リチュアル)でも、そのアイデアと作曲能力を見せつけています。
METALLIHAのMetallica(メタリカ/ブラックアルバム)やMEGADETHのCountdown to Extinction(破滅へのカウントダウン)あたりの流れにあるThe Ritualとはテイストを異にしますが、時流の音をキッチリ消化して巧みに曲作りに反映させているのはこのアルバムも同様です。
しかも、全アルバム中でも高水準のクオリティを保っていて、全編テンションが途切れません。
ヘヴィネスを重視した音作りもLOWからの流れで、その後現在に至るまで大きく変化はしていません。今作ではさらにヘヴィグルーヴとブルタリティという、メタル新潮流の要素を取り入れながらも何にも似ていない、あくまでTESTAMENT流のヘヴィミュージックを作り上げています。
重さに傾きすぎて、リフの鋭い切れ味がやや鈍くなった印象は否めないけれど、ここまでの凄みがあればそれはそれでアリでしょう。ベテランがこういったモダンな方法論にチャレンジしたケースは多々ありますが、その中でも稀有な成功例の一つと言えます。
ただ、このアルバムのリリースは一億総PANTERA化現象もデスメタルムーブメントもすでに一段落していた時期でして、「何故にこのタイミングで?」という疑問は残らないでもないんですけどね。