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耽美派プログレッシヴ・ドゥーム・デスからフィメイルVo.ゴシックメタルへの過渡期の黒歴史に埋もれた問題作!
この作品はゴシックメタルの基礎を築いた第一世代で、その後のゴシックメタルシーンをリードし続けたオランダのバンドTHE GATHRINGの2作目です。
ゴシックメタルのパイオニアである第一世代のバンドは、デスメタルシーンからスタートしてアルバムごとにスタイルを変えつつ音楽的な実験を繰り返してきました。
彼らも例外ではなく、このアルバムもそんな歴史の中で生み出された1作なんですが、なぜかファンからは何かと酷評され一時期は黒歴史扱いもされていた作品です。
問題作扱いされる理由は…
②. 3rd以降と違って女性ヴォーカルじゃない。
③. ヴォーカルがなんか微妙。
①. 1stと音楽性が変わった。
THE GATHRINGの1stがリリースされたのは、まだゴシックメタルと言うカテゴリも確立されず、日本では「耽美派ゴシック・ドゥーム・デス」などと呼ばれていた頃。
オーケストレーションに女性ヴォーカルまで盛り込みプログレテイストも感じさせる展開のサウンドは、同時期パイオニア的バンドPARADISE LOST(パラダイスロスト)やTIAMAT(ティアマト)ともまた違った耽美志向のドゥーム/デスメタルとして、マニアックなリスナーの注目を集めていました。
ドゥーミーな重々しいリフやデス声などのデスメタル要素は排され、あまりにポップでニューウェーヴ色やフォーキーな要素すら感じさせるこの2ndのサウンドは、ゴシックメタルの進化としては予想の範囲だったとはいえ、1stに独創的な衝撃を受けたリスナーには受け入れ難かったことは想像に難くありません。
実際、輸入盤店での扱いもかなり大々的にプッシュされていた1stから一転して、この2ndではなんか申し訳程度で残念なことになっていました。
②. 3rd以降と違って女性ヴォーカルじゃない。
彼らはこの次の3rdで、サウンドの方向性は今作の延長線上ながらここまでアクセント的な扱いだった女性ヴォーカルをメインに据え、歌姫ゴシックメタル路線で大ブレイクします。これが後に大流行する歌姫メタルのハシリとなるのですがそれはまた別の話です。
ともかく、3rdで一般のメタルリスナーのみならずプログレ系のリスナーからも大きな支持を受けるわけですが、ここから入ってきたリスナーにとってはTHE GATHRINGといえば朗々と歌い上げるフィメイルVoによる歌モノスタイルとなるので、遡って2ndに触れたリスナーは1st原理主義者とはまた別の意味で落胆してしまうことになります。
③. ヴォーカルがなんか微妙。
結局はこれに尽きるわけですね。まぁ、これについては批判的な人の気持ちも解らないわけではありません。
私も初めて聴いた時は「あ〜、このVo.デス声やめてスタイル変えたのね。まだちょっとギコチナイなぁ…」くらいの印象だったんですが、クレジットで1stとは別人だということを知って、「えっ?わざわざチェンジしてこれなの?」と思ってしまったのが正直なところです。
このヴォーカルどうなの?
今作がデビューになるった新ヴォーカルNiels Duffhuesは、あえて言うならデイヴ・ムステイン系のスネ夫ヴォイス。ヘタウマ系であるのは確かですが、言うほど悪くも下手でもないとは思いますし個人的にも嫌いじゃありません。
アコースティック系のオルタナやストレンジポップ系にいそうなスタイルで、実際フォーキーなM-05などはなかなかハマっています。
しかし、上手い下手や表現力の有る無しよりも以前にこのサウンドには微妙にマッチしていない気がしますし、何よりヴォーカルスタイルそのものに少し無理して作っているような印象があります。
そう思ってNiels DuffhuesのWebサイトを見つけて音源をチェクしてみたところ、そこで聴ける歌声はやはり今作とはかなり異なるものでした。
案の定、曲調はアコースティック&フォーキーで薄暗さと哀感の漂う上質なオルタナ系サウンド。完成度もなかなかのもので、すっかり聴き入ってしまいました。
今作からの成長を加味したとしても表現力もなかなかのもので、やはり当時はゴシックメタルを意識して無理にスタイルを作りすぎていたのではないかと思います。
実際のところ作品としてどうなの?
マニアに絶大な支持を受けた1stと歌姫路線で幅広いリスナーに受け入れられた3rdの間に立って、どちらのファンにも評判が良くない作品で、確かに過渡期ならではの煮えきれなさは感じますが、クオリティでは決して低くありません。
ゴシックメタルファンで、1stのデス声とアングラ感やこれ以降の歌姫路線にこだわらず切り離して聴けるリスナーであれば、一聴の価値のあるアルバムです。
問題作度:★★★☆☆
一般評価:★☆☆☆☆
筆者評価:★★★★☆