開放的な爆走R&Rとは一線を画したダーク&ヘヴィな暗黒ハードR&Rサウンドとは?
ハードR&R(ロックンロール)シーンには、ヘヴィネスとダークネスにあふれたサウンドとホラー/オカルト的な世界観やギミックを持った、暗黒R&Rとでも呼ぶべき一群が存在します。
R&Rとしては異端の部類となりますが、外連味重視の虚仮威し的様式美にあふれたスタイルは、同じ特徴を持つヘヴィメタルのファンにとってはより馴染みやすいものです。
デスメタルから派生したデスロール(デッスンロール)、ゴシックメタル寄りのゴスロール(ゴッスンロール)、MOTORHEADの盟友THE DAMNED(ダムド)からMETALLICAも影響を受けたTHE MISFITS(ミスフィッツ)へと連なるホラーパンクや、その姉妹ジャンルのサイコビリーなどがそれです。
これらのバンドの中には、ヘヴィメタルから派生したものや多大な影響を受けているも多く、サウンド面でもヘヴィメタル/ハードロック色の強いバンドが少なくありません。
忘れてはいけない暗黒ハードR&Rのルーツ的バンド
こういった暗黒R&Rにとってのルーツ的存在としては、さかのぼるならホラーギミックで売り出した英米の2大スクリーミンことスクリーミング・ロード・サッチとスクリーミン・ジェイ・ホーキンスあたりにたどり着きますが、より直近のパイオニアと言えるのが、前回の王道編でも軽く紹介したTHE DAMNED(ダムド)とVENOM(ヴェノム)です。
THE DAMNED|ザ・ダムド
THE DAMNEDはSEX PISTOLES(セックス・ピストルズ)、THE CLUSH(ザ・クラッシュ)と並び英国3大パンクと称されるバンドですが、他の2バンドと比較するとハードロックやヘヴィメタルに通じる要素が多く、実はメタルシーンとも縁の深いバンドです。
ヘヴィメタルフィールドで活躍していたMOTORHEADのレミーも、唯一の盟友ととして常々THE DAMNEDの名を挙げていましたし、全盛期のメンバーだったアルジー・ワードはのちにNWOBHMシーンでMOTORHEADの弟分として活躍するTANK(タンク)を結成することになります。
ポリティカルなアティチュードよりも、虚仮威しとも受け取られかねないホラー趣味のギミックやゴシック要素を押し出すケレン味が大きな特徴で、サウンドは疾走感が強く半端なメタルよりもはるかにヘヴィでハード。
後のポジティブパンク/ゴシックパンクやTHE MISFITSなどのホラーパンク、DANZIG(ダンジグ)やTYPE O NEGATIVE(タイプ・オー・ネガティブ)などのUSハードゴシック,サイコビリー,デスロックなどあらゆるダーク系R&Rの源流でもある重要バンドです。
VENOM|ヴェノム
言わずと知れたNWOBHMムーヴメントを代表するバンド。
TANKやGIRLSCOOL(ガールスクール)のようなMOTORHEADファミリーとして扱いはされていませんが、彼らもMOTORHEADをルーツにしその影響下にあるバンドで、そのハードR&Rを極端にデフォルメして、さらにデコレーションを加えた異端で異形のサウンドを作り上げています。
サタニズムやアンチキリストなどアンモラルでオカルティックなテーマが特徴ですが、あくまでエンタメの範疇の虚仮威しギミックと割り切っているようで、一部のブラックメタルやゴシックバンドに見られる厨二的ナルシシズムは感じさせません。
音楽性は次第にメタル的構築美を増していきますが、多くのスラッシュメタル、デスメタル、ブラックメタルに影響を与えた初期は、間違いなくMOTORHEAD直系の激烈なハードR&Rでした。
UKエクストリームメタルの創始者として後続に多大な影響を与えた最重要バンドでもあり、SODOM(ソドム),ENTOMBERD(エントゥームド)をはじめとしたロッキンなエクストリームメタルのほぼ全てのルーツにはVENOMの存在があります。
デスロール(デッスンロール/デスロック)
デスメタルから派生したハードR&Rで、基本的にはデスメタル/スラッシュメタルをベースにハードロック的な要素を強めて、R&R的なビートやドライヴ感を強調したスタイルです。
代表的な存在は一時期のCARCASS(カーカス)とENTOMBED(エントゥームド)。特にENTOMBEDの地元スウェーデンやフィンランドなどの北欧シーンは以前からR&R/ガレージロックの盛んな上に、瞬間的にフォロアーが増殖する“猫も杓子も”な土地柄もあって、ENTOMBEDのブレイクにより瞬く間にデスロールスタイルがあふれかえります。
活動シーンや人脈が重なるデスメタル,デスラッシュ,ブラックメタル,メロディックデスメタルなどとも相互に影響を受け合い、これら周辺ジャンルにもTHE CROWN(ザ・クラウン)やCHILDREN OF BODOM(チルドレン・オブ・ボトム)の様にデスロールスタイルを取り入れたバンドが現れました。
CARCASS|カーカス
NAPALM DEATH(ナパーム・デス)と並ぶグラインドコアのカリスマからスタートしてデス/スラッシュメタル要素を強めてゆき、泣きのギターを大胆にフィーチャーした4作目HEATWORK(ハートワーク)でメロディックデスメタルとしてイギリスを代表する存在となったデスメタルバンド。
大きくブレイクしたにも関わらず、その後メンバー脱退を経て解散も確定してしまいますが、そんな最悪な状況の中で、デスメタルにハード&ヘヴィなR&R/ハードロックをサウンドに取り入れた画期的なスタイルを生み出します。
その5作目SWANSONG(スワンソング)は、独創性と完成度の高さにもかかわらず泣きメロファンの不評を買い問題作扱いされますが、後年デスロールの先駆けとして再評価を受けるようになります。
後に再結成し新作もリリースしますが、その時点では再びHEATWORKに近いスタイルに戻っていました。
ENTOMBED|エントゥームド
デビュー当初はスラッシュ色の強い典型的なスウェーディッシュ・デスメタルでしたが、その端々にハードコア・パンク的な要素も感じさせていました。
ロッキンでグルーヴィーなハードコアデススラッシュ路線で出世作となった、3作目WOLVERINE BLUES(ウルヴァリン・ブルース)を経て、さらにヘヴィガレージロック的なスタイルに寄った次作To Ride, Shoot Straight and Speak the Truthで新たな人気を獲得します。
のちにブレイクする北欧ハードR&Rブームの火付け役でもあり、そのシーンの中心的バンドTHE HELLACOPTERS(ヘラコプラーズ)を結成するニッケ(Nicke)も在籍していました。
ニッケ脱退後はオルタナ路線,VENOM路線,デスロック,デスラッシュ,ドゥーム,ゴシックなど度々の路線変更を重ねたあげく2つに分裂。どちらも再びデスメタル色を強めています。
GOREFEST|ゴアフェスト
ウィキペディア記事の影響で、近年デスロールのパイオニアとして取りざたされることが多いバンド。その評価は一面では正解ですが基本的には的外れです。
彼らがデスロール化したとされるのは1996年の4作目Soul Survivor(ソウル・サヴァイヴァー)ですが、この時期はポストデスメタル的な流れでグルーヴメタルを意識したハードコアなグルーヴスラッシュ路線を試みるバンドが続出していて、GOREFESTもこれらのひとつに過ぎません。
このアプローチをとったバンドはザッと挙げてもENTOMBEDを筆頭にCANCER(キャンサー),UNLEASHED(アンリーシュド),GRAVE(グレイヴ),MASSACRE(マサカー),KONKHARA(コンカラ),MORGOTH(モーゴス)…と枚挙に暇がありません。
Soul Survivorが特にロッキンな仕上がりになったのは、バンドがCATHEDRAL風に影響を受けてグルーヴドゥーム要素まで加えたことによる単なる食い合わせの結果。
どう聴いても意図的にデスロールを目指したサウンドではなく、彼ら程度でデスロールのパイオニアと呼べるなら上記のバンドたちもその資格が十分あります。
ゴスロール(ゴッスンロール)
そのルーツやジャンル確立に至る経緯はデスロールとほとんど同じですが、その名のとおりゴシック要素が強いことが唯一の違いです。
北欧R&RのルーツHANOI ROCKSや、ゴスロールの原点SENTENSED(センテンスド)の影響が大きいことからその地元であるフィンランドで特に盛んで、ある意味フィンランド流デッスンロールと呼んでもいいスタイルです。
SENTENSED以外では69eyes,Babylon Whoresなどが代表的なバンドです。
サウンドには、ゴシックメタルを中心に80年代のゴシックロック/ポジティブパンク、THE DAMNEDからTHE MISFITS〜DANZIGへと連なるホラーパンクからの影響が色濃く見られます。
余談ですが、フィンランドはお国柄なのか、ビジュアルとギミックを重視したビジュアル系バンドが目立ちます。
SENTENCED|センテンスド
メロディックデスメタルのパイオニアとしても知られ、比較的早い時期から耽美性やメロディを意識して楽曲に取り入れていたバンド。
出世作となった1995年の3作目AMOK(アモーク)はメロディックデスメタルの名盤の一枚に数えられるアルバムですが、そのサウンドは類型的な北欧メロデスとは一線を画していて、デスロック/デスロールテイストが漂う個性的な作風でした。
続くミニアルバムLove & Death(ラヴ&デス)でゴシックメタルに急接近して、ゴスロール的なスタイルを確立します。
それ以降はややR&R的なダイナミズムが薄れ、耽美性や叙情性を重視した楽曲が増えて、様式美的なゴシックメタルに流れていきます。
THE 69 EYES|ザ・69アイズ
THE 69 EYESはHANOI ROCKS(ハノイ・ロックス)やグラムメタル,ポジティヴパンクをルーツに、SENTENCEDらゴシックメタルの様式美を取り入れてゴスロール的スタイルにたどり着いたバンド。
ファッション面でもサウンド面でも、ゴシック的なナルシシズムや耽美嗜好よりもグラムメタル的な様式美が強く、グラマラスなメイクもバッチリでアイドルパーリーロック要素が濃厚なのが人気の秘密。
90年代から、ビジュアル系ゴスロールバンドとして比較的安定した活動を続けていますが、かなり好き嫌いが分かれるグループではあります。
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90年代中期から活動を続けるゴスロール系としてはやや後発のバンドで、作品数もフルアルバム3枚と少ないですが、クオリティの高い楽曲でマニアックなリスナーからの評価が高いグループです。
ゴシック的な耽美性とメタリックなエッジがあるサウンドとドライヴ感のあるR&R/ハードロックのバランスが絶妙で、時折まじるサイケデリックなフレーバーも効果的。
叙情的ながら甘過ぎないストイックなゴスロールは、この手のバンドにありがちな叙情性や耽美性に傾きすぎる傾向が気になる硬派リスナーも一聴の価値があります。
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ヘヴィメタルに大接近したホラーパンク/サイコビリー
90年代の米国では、伝説のホラーパンクバンドTHE MISFITS(ミスフィッツ)が活動再開するサプライズがあり、メタルファンからも高い支持を集めました。
その流れでNEKROMANTIX(ネクロマンティックス)やTIGER ARMY(タイガー・アーミー)のようなハードな新世代サイコビリーも注目を浴びるようになります。
ホラーパンク
Screamin’ Jay Hawkins(スクリーミング・ジェイ・ホーキンス)やScreaming Lord Sutch(スクリーミング・ロード・サッチ)にのように、ホラーギミックのR&Rという存在は古くからありましたが、パンクムーヴメントの中でそのエンタメ的ホラー要素を取り入れたのが英国3大パンクのひとつTHE DAMNEDです。
さらにアメリカ的なエンタメ色を強めつつ、よりハードなサウンドでそのスタイルを再解釈したのがTHE MISFITSに代表されるホラーパンク勢です。
ヘヴィメタルからの影響も強いハードコア/メロコアの世界的なブームという追い風もあり、なんと解散状態にあったホラーパンクのカリスマTHE MISFITSが復活。
その影響もあってヘヴィメタルをルーツに持つバンドも多いホラーパンクやサイコビリーのシーンも活性化していきました。
THE MISFITS|ミスフィッツ
METALLICAがカバー曲を発表したことでメタルファンにも広く知られるようになった伝説のホラーパンク/ハードコアバンド。
パンクファッションやロックTシャツが流行った時期に著名人もこぞって彼らのTシャツを着ていたので、イメージキャラクター「クリムゾン・ゴースト」だけは見たことがある人も多いはず。
ヴォーカルのグレン・ダンジグはゴシックホラーテイストの強いハードロック/ヘヴィロックバンドDANZIGで活動していましたが、残りのメンバーも新ヴォーカルを迎えてよりハード&メタリックなサウンドで活動再開します。
現在は喧嘩別れしたダンジグと和解し、再びヴォーカルに復帰してもらっています。
サイコビリー
サイコビリーはアメリカンオールディーズに欠かせないロカビリーのサブジャンルにしてホラーパンクの姉妹ジャンルで、やはりホラー/オカルト的なギミックや世界観が特徴です。
ロカビリー同様ウッドベースを要としたアコースティック編成が多くメタリックな重量感は得られませんが、近年はプラグインしたエレクトリック体制のバンドも増えています。
アメリカのTIGER ARMYやデンマークのNEKROMANTIX、日本のHELLBENT(ヘルベント),MAD MONGOLS(マッド・モンゴルズ),デスマーチ艦隊などの新世代のサイコビリーバンドの中にはヘヴィメタルに影響を受けたバンドも多く、ヘヴィメタルナンバーをカバーすることもありました。
これらは過去のバンドと比べるとサウンドもハードかつヘヴィで、ドライヴするサウンドに加えキャッチーなメロディを聞かせるものも多く、メロディック・パンクと同様にメロディックパワーメタルに近い感触を持つバンドも存在します。