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ジャーマン・スラッシュメタル|German Thrash Metal
アメリカに次ぐスラッシュメタル大国ドイツ!
スラッシュメタルは英国のNWOBHMをルーツにしながら、米国で生まれ米国を中心に発展してムーヴメントを築いた音楽です。
ヘヴィメタル発祥の地イギリスはむしろハードコアの天下でしたし、のちにエクストリームメタルの一大産地となる北欧スウェーデンもデス/ブラックの時代までは雌伏の時代であり、スラッシュメタルについては独自のシーンができるほどの勢いはありませんでした。
ましてや他のヨーロッパの国々はそれ以前の問題でしたが、唯一の例外だったのがドイツ! アメリカに次ぐスラッシュメタルのメッカとして一大ムーヴメントが巻き起こり、数々の名バンドを生み出すことになりました。
ジャーマン・スラッシュメタルの特徴は?
スラッシュメタルとしては比較的パワーメタル寄りの作風が目立つUSスラッシュシーンと比較すると、ジャーマンスラッシュシーンには明らかによりアグレッシヴでハードコアな音楽性のバンドが集中しています。
さらに、ドイツらしく変態的かつ生真面目にこだわりを突き詰めるバンドや、飲み過ぎで頭のネジが緩んだバンドなど、音の過激さ意外にもいろいろと突き抜けたエクストリームな個性を持ったバンドが多いのが特徴です。
ドイツではメロディック・パワーメタルシーンも活況があったので、メロディを意識したり正統派メタル志向を持ったバンドは、そちらのシーンに流れがちだったのかもしれませんね。
また、ドイツとアメリカの音楽事情の違いからライブと作品リリースの比重に差もあるかもしれませんが、USバンドに比べると作品を発表するペースが早く、圧倒的に作品数が多い傾向にあります。
ジャーマン・スラッシュメタルを代表する4大バンド
ドイツのスラッシュメタルシーンにも、アメリカのBIG4(四天王)のような重鎮クラスのトップグループが存在します。
日本では“ジャーマンスラッシュ三羽烏”などというこっぱずかしいネーミングをされていた、ジャーマンBIG3ともいうべき3バンドKREATOR(クリエイター),SODOM(ソドム),DESTRUCTION(ディストラクション)がそれで、いずれもジャーマンスラッシュシーンを代表するにふさわしい個性と実力を持ったバンドばかりです。
KREATOR|クリエイター
KREATORは、スラッシュメタル界でも最凶と称されるケタ外れの突進力を持つハードコアなバンドでありながら、ゴシックメタルにも通じる欧州暗黒耽美趣味、インダストリアル的なクールでソリッドなテイストといった、いくつものアクの強いエッセンスも併せ持つ一筋縄ではいかない存在です。
スラッシュメタルが終焉を迎えた90年代に新たな方向性を模索した結果、その多趣味が高じた音楽的実験が過ぎたことでリスナーの間でも賛否両論が巻き起こります。
新機軸についていけず脱落する保守的なオールドファンも続出しました。
00年代に入ると、既に一通りの実験をやり尽くした上にスラッシュリバイバルによるオールドスクール再評価の機運が高まった影響もあって、ストレートなスラッシュ路線を基調にしつつもこれまでに試みた要素をバランスよく取り入れたスタイルに落ち着きました。
ジャーマンBIG3の中では音楽的な変遷が激しい分、常に進化を続けていて現役感が最も強いバンドで、今もコンスタントな活動を続けています。
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SODOM(ソドム)はウォーメタルなどと呼ばれることもある、戦争をテーマにしたポリティカルなアティチュードと詞、そしてMOTORHEAD(モーターヘッド)を敬愛しハードコアの影響も受けたダーティー&ロッキンな要素の強いサウンドで独自の地位を築いているバンドです。
作品によって、メタル的な構築美や整合感を重視していたり、パンキッシュでロッキンな部分が全面に出ていたりといった違いはありますが、基本的な方向性は初期の頃から一貫しており、常にストレートでハードコアなスラッシュメタルにこだわっています。
MOTORHEADにならって3ピースバンドを貫いていましたが、最近では4人編成へと変わってしまいました。
中心メンバーのトム・エンジェルリッパーは精力的な多作家でもあり、SODOMとしてはもちろんソロからスタートしたお遊び感あふれるサイドプロジェクト、ONKEL TOM(オンクルトム)名義のパブメタル/ビアメタルユニットでもパーマネントバンド並の数の作品を発表しています。
DESTRUCTION|デストラクション
DESTRUCTIONのデビュー当初は独特の音質とクセのあるリフにアクの強いヴォーカルという特徴はあったものの、ヒネリのない直線的スタイルのバンドにとどまっていましたが次第に複雑で独創的な作風を強めてゆきます。
特にテクニカル志向のギタリストハリーが加入した効果もあり、予測不能な曲展開で変速リフを繰り出すある種プログレッシヴで変態性の強い音楽性に成長して注目を集め、人気も一気に高まります。
しかし、本来が直球スタイルが好みでハリーが持ち込んだ音楽性に反感を持っていた、初期メンバーのシュミーア(Ba.+Vo.)がゴタゴタの末に脱退したことでケチがつきます。
その後リリースしたテクニカルかつキャッチーな会心の作品も、フロントマンであるシミューアシンパが多く最初から否定的なファンには受け入れられず、バッシングの目にあいます。
その結果バンドは失速、ほぼ解散に近い状態が続くことになりますが、00年代に入って本格的に再始動し現在も活動を続けてます。
再結成後はシュミーア中心の体制となったため、初期をブラッシュアップした程度のストレートなスタイルに落ち着いてしまい、それなりの支持は得たものの全盛期の魅力を取り戻すことはできていません。
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スラッシュメタル激戦区だったドイツには、上で紹介したBIG3にも劣らない高い実力と強い個性を持ったバンドがひしめいていました。
TANKARD|タンカード
“ビアマグ”を意味するバンド名のとおりビールをテーマにした楽曲で知られ、パブメタル/ビアメタルのパイオニアとして酒飲みからの絶大な支持を誇る飲んだくれスラッシャーです。
BIG3に匹敵するキャリアを持ち地元に根ざしたコンスタントな活動を続けてきたバンドで、リリースしてきた作品数もジャーマンスラッシュではトップクラス。
最近ではBIG3にTANKARDを加え「テュートニックBIG4(日本でいうなら大和四天王くらいの意味)」などと呼ぶこともあるようです。
ジャーマンスラッシュとしては珍しい陽性のユーモラスなキャラクターが持ち味で、サウンドもパワーメタル寄りのストレートで馴染みやすいスタイルの愛され系バンドです。
Amazon Musicで『TANKARD』の聴き放題をチェック!HOLY MOSES|ホーリー・モーゼス
女性ヴォーカルのエクストリームメタルといえば、今ではARCH ENEMY(アーチ・エネミー)が代表各として名を馳せていますが、その歴代女性Voも土下座したまま逃げ出す、元祖エクストリーム歌姫(ディーヴァ)の女帝サバイナ・クラッセン率いるバンドがHOLY MOSES(ホーリー・モーゼス)です。
その美貌と裏腹に、デスヴォイス一歩手前ながらも女性的魅力があるナチュラルな激烈ヴォーカルには、ARCH ENEMY歴代女性Voのデスヴォイトレで作ったような平坦なスタイルにはない強烈な凄みと個性が感じられます。
トータルキャリアではBIG3を上回り、古くからデスメタルに通じるなエクストリームサウンドを完成させていた、ジャーマンデスラッシュのパイオニアでもあります。
近年ではモダンなデスラッシュテイストも取り入れつつ、オリジネイターにしか作り出しえない完成度の高い独自のエクストリームサウンドを実践し続けています。
MEKONG DELTA|メコンデルタ
プログレッシヴ・スラッシュメタルとという肩書きのバンドは、実はあまり存在しません。
なぜなら、当時最先端の音楽だったことで先鋭的ミュージシャンも流入してきた結果、複雑な構成やテクニカルフレーズといった“プログレ的”要素をも内包するようになったスラッシュメタルこそが、プログレッシヴなヘヴィメタルという問いに対するひとつの最適解といえる存在でもあったからです。
つまり、当時はスラッシュメタルであるだけですでにプログレッシヴな存在と言えたわけで、更なる進化系のデスメタルやグルーヴメタルが台頭するまではメタルの最先端/最先鋭であり続けていました。
そんな中でもあえてプログレッシヴと付け加えたくなるほどの、世界有数の複雑怪奇な独自のテクニカルサウンドを実践していたのが、プロデューサーとしても鳴らしたラルフ・ヒューベルとのプロジェクトMEKONG DELTAです。
大作主義やクラシック志向といったいわゆる類型的な“プログレ的”要素も持ち合わせており、メタルファンのみならずプログレファンをも唸らせる存在でした。
DEPRESSIVE AGE|ディプレッシヴ・エイジ
DEPRESSIVE AGEは、東西分断時代から活動を続けベルリンの壁崩壊後にデビューした旧東ドイツのバンド。
彼らの登場時にはスラッシュメタルのムーヴメントは既に収束していましたが、後発にもかかわらず類型的な焼き直しに終わらない独自性の強いスタイルを創り上げています。
基本的にはテクニカルでプログレ要素もあるスラッシュということになりますが、安易な大作主義や単なる技巧の披露に陥らず、スラッシュメタル/ヘヴィメタルとして魅力的な楽曲を作り上げており、それでいて今まで聴いてきたどのバンドとも異なる個性的なサウンドです。
その意味では、音楽性は違えどRAGE(レイジ),DESTRUCTION,VOIVOD(ヴォイヴォド)といったバンドらに通じるものもあり、あえて言えばドイツのDESPAIRあたりに近い感触を持っています。
ヴォーカルはオペラを学んんだ経験があるらしく技量は十分ですが、デスヴォイスからクセがあるもののエモーショナルなクリーンヴォイスまで巧みに使いこなし、典型的なメタルスタイルを超えた表現力を持っています。
隔絶された環境での音楽活動がどれだけ影響したのかはわかりませんが、西側からはとても登場しなかったであろう強烈な個性を持ったバンドです。